バサバサと、アルバムが臨也の手から離れていく。数々の思い出が散らばった。


「なん…で…?」


どうして新羅が家にいるのか。臨也は青ざめた。自分が一番会いたくなかった、逃げようとしていた人物が目の前にいる。
そういえばずいぶんと昔に合鍵を渡していたことを臨也は思い出した。きっとそれを使ったのだろう。まさかまだ持っていただなんて思いもしなかった。

新羅が一歩歩み寄る。それだけで臨也は激しい拒絶を示した。


「くるな!なんでここまで来たの!?俺は…っ、俺は、もう耐えられないよ…」
「臨也、」
「新羅にだけは愛されてると思ってた!だけど、やっぱり違う。新羅は私のことなんて愛してなんてないんでしょ!?」


涙腺が決壊したように涙が溢れ出した。最近泣いてばかりだ、と臨也は思う。全部に新羅が関わっていて、新羅といると泣いてばかりだったとも思った。

新羅は臨也に近寄り、そして、手を伸ばす。びくりと臨也が体を強張らせると、新羅は驚くくらい優しく臨也の涙をぬぐった。


「新羅…?」
「………の、…か……」
「え?」
「臨也の馬鹿!!」


パンッ!と乾いた音が響く。
それは新羅が臨也の頬を打った音だった。熱を持っていく頬にそろそろと手を添えながら臨也は驚いていた。新羅が自分を殴ったことにではない、新羅もまた自分同様に泣いていたからだ。


「なんで勝手にそんなこと言うんだよ!俺がいつそんなこと言ったっていうんだ!?俺が臨也を愛してない?ふざけるな!俺は臨也が愛しくて愛しくて仕方がなくて、だから……っそうじゃなきゃあんなことするわけないだろう!?」
「へ、あの、それ…どういうこと…」
「ッわあぁああぁああぁああん!!」
「ええっ!?」


新羅は言いたいだけ言ったかと思えば、子供のように声をあげて泣き出した。とっくに成人した男性が目の前で大声を上げて泣き出す異常事態に臨也は当然戸惑った。


「し、新羅泣かないでよ!ね?ほら泣きたいのは私の方なんだから!」
「あああぁああああぁぁあぁあ!!」
「泣かないでってばぁ!そんなに泣かれたら、俺も…ふえぇぇぇぇぇんっ」


臨也が新羅の胸に飛び込む。二人は抱き合いながら、気がすむまで泣きまくった。




















「…おちついた?」
「臨也は?」
「一応」
「うん。僕も」


数分か数十分か経って、ようやくおちついた新羅と臨也は二人並んでソファに座っていた。

だが二人の間には人ひとり分ほどのスペースが開いていて、まだ完全には打ち解けていないのがうかがい知れる。

お互いに泣きじゃくって気まずい雰囲気の中、話を切り出したのは新羅だった。


「…ねえ、臨也はさっき僕が臨也を愛してないなんて言ったけど、どうしてそうなっちゃったのかなぁ」
「どうしてって、新羅今まで私に酷いことばっかりしてきたでしょ?だから私のこと嫌いだったか、それかいい性欲処理くらいにしか見られてないんじゃないかって…」
「それが違うんだよ。確かに酷いことはした。自覚はある。でも…言い訳にしかならないかもしれないけど、聞いてほしいんだ。僕は臨也を愛してる」


新羅は全てを臨也に話した。
いきすぎた愛情表現。狂った支配力。歪んだ独占欲。全て。
臨也はそれを最後まで黙って聞いていて、すると止まったはずの涙がまた一筋流れた。


「ごめん臨也、やっぱり嫌だったよね?君が望むんなら、やっぱり僕から離れても…」
「いや!やだよ、だって俺嬉しいんだもん」
「?」
「俺、愛されてたんでしょ?新羅は俺のこと愛してるんでしょ?新羅に嫌われてたわけじゃなかったんだ、よかったぁ」


臨也はほっと胸を撫で下ろす。新羅はそれを呆然と見ていた。


「…臨也、それでも僕は君にたくさん酷いことをしたんだよ?ちゃんとわかってる?」
「わかってるよ。あれはああいうプレイだったんだって思えば平気だよ」
「……やっぱり君の思考回路は理解不能だ」


それが臨也らしいといえば臨也らしいのだけど。そう口の中で呟いて新羅はため息をついた。


「…ああそうだ、今までのおわび…にはならないかもしれないけど、何でも臨也の望みを叶えるよ。そのくらいはさせてほしい」
「へえ、じゃあ粟楠会の重要機密事項とかほしいなぁ」
「…遺書書かないとなぁ」


新羅は冷や汗を流しながら明後日の方向を見つめる。
臨也はくすくす楽しげに笑った。


「冗談冗談。俺にはもっとしてほしいことあるんだぁ」
「よかった…さすがにまだ死にたくないからね。で、何?僕死なない?」
「うーん?ある意味逝っちゃうかも?」


意味深な言葉に新羅は眉を潜める。臨也は腕を伸ばし、新羅の手の上に自分の手を添えた。


「まず、俺を寝室まで連れていってよ」





 
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