「おらよ」


電子レンジで適当に暖められただけのホットミルクに顔をしかめながら、臨也は「どーも」とそっけなく言った。

「うちに来るか?」と言われホイホイついてきてしまった臨也だったが、静雄の家に来てから本当にこれでよかったのかと思い直していた。
新羅と離れたかったのは事実。だけどだからってこのような浮気のような真似をしてもいいのかと、新羅を愛しているからこそ罪悪感を感じる。

多少ボロくても室内のため臨也がコートを脱ぐと、静雄は臨也の首もとに目を見開いた。


「臨也…そんな趣味があったのか?」
「え、あ!?ちが…これは新羅が勝手に……!」


未だ新羅につけられた首輪で臨也は戒められていた。隠そうにも隠しきれないそれを静雄が掴む。


「邪魔だろ。取るぞ」
「は」


ぱきん。

静雄の手によって簡単に首輪は外された。静雄の並々ならぬ怪力にかかればこのような首輪はおもちゃに過ぎない。
臨也は急に風通りのよくなった首筋に手を添えた。


「…新羅の……所有の証……」
「…壊さない方がよかったか?」
「ううん……っ」


唐突に涙腺が決壊したように臨也の瞳からは涙が溢れだした。目から頬、頬から顎を伝い固く握られた拳の上に落ちていく。
突然泣き出した臨也に静雄は慌ててポケットを漁りハンカチを取り出した。そのままごしごしと少し乱暴に涙をぬぐってやる。


「おいっ、どうしたんだよ!やっぱりあの首輪そんなに大事だったのか!?」
「わかんない……もう、全然わからないよぉ…!」
「ッだあああぁあああぁ!泣くなっ!!」
「っ!?」


臨也は静雄の腕に抱き締められた。自分のよく知る薬品のにおいではなく、煙草のにおいがする胸に顔を押し付けられ臨也は混乱した。


「シ、シズちゃん!?」
「……お袋が」
「はい!?」
「ちっせーころ俺が泣いてたとき、こうして抱き締めてくれたなって」


臨也の頭が一瞬フリーズした。

だがすぐに言葉の意味を理解すると、吹き出して盛大に笑いだした。


「ぷっ…あはははははは!何それシズちゃんと一緒にしないでよ!というかシズちゃんにもそんな可愛い時代があったんだねぇ信じらんない」
「うるせぇよ!それに手前も泣き止んだろうが!!」
「え……あれ、ほんとだ」


臨也の涙は言葉の通り引っ込んでいた。今度はクスクス笑いながら、静雄の胸にコツンと額を当てる。


「不思議だねシズちゃん。俺の涙を止めてくれるし、こんなに笑ったのも久しぶりだ。こんなに優しくしてくれたのだって…シズちゃんがきっと一番優しくしてくれたよ」
「臨也…」
「俺、新羅じゃなくてシズちゃんを好きになりたかったなぁ。そうしたら、こんなに苦しむこともなかったのに………」


臨也のか細い切実な想いに静雄の胸は締め付けられた。それと同時にすぐ行動に移った。
臨也を抱き上げ、歩いて数歩もしないベッドの上におろす。ベッドの上ですることなんて1つしかない。


「……する、の?」
「卑怯だって、最低だってわかってる。でも俺はこれ以上臨也の辛そうな顔は見たくねぇ。…この時だけでいい、新羅のこと忘れて、楽になれよ」


ずるい誘惑だ、と臨也は思った。

精神不安定な状態でそんな言葉をかけられたら。
臨也は心も体も弱っていた。何かにすがりたかった。


「………乱暴にしても、何してもいいから…、何も考えられなくなるくらいぐちゃぐちゃにして……!」


臨也の手が、静雄の背に回された。















「臨也が…いなくなった…?」


粟楠会を出て、携帯の受信メールを確認した新羅は絶望した。
あんな体で外に出るのは危険行為だ。今の臨也にいつもの俊敏さはないし、どろどろに犯したからまだ快楽には敏感なはずだ。
そんな状態で、もしも臨也に恨みを持つ人物が臨也と遭遇したら?そんなの決まってる。殴るか犯すか殺すのどれかだ。

メールの差出人であるセルティはもう臨也の探索を開始しているらしい。新羅もすぐに走り出そうとしたが、あてもなく走っていては臨也を見つけることなど不可能だ。

ダラーズのサイトを開き、折原臨也を見かけた人物は書き込んでくれというような旨のスレッドを立てる。ダラーズの人数は半端ではない。何人かくらいは臨也を見かけていてもおかしくなんてないのだ。


「臨也……私たちはどうしてこうもすれ違ってばかりなんだろうね………」


新羅は唇を噛み締め、溢れ出そうな涙を堪えた。





 
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