セルティが臨也がいないことに気づいた頃、臨也は行く宛もなくただフラフラとさ迷っていた。体はまだ辛かったが、これ以上新羅の家にはいれないと思ったのだ。首輪は邪魔だったが短時間の内に鍵を見つけることができず、コートを上までしめて隠すに留まった。

臨也に新羅と話し合ってみたい、と思う気持ちはあった。しかしそれで拒絶されたら?本当に、新羅が自分を愛していなかったら?
マイナスな感情だけが先走り、臨也は逃げていた。体が勝手に動いていた。


「…しばらく身を隠そうかな。波江さんに休みあげて…、あーでもついてきてほしいかも……」


独り言を言いながら歩いているとドンッと肩がぶつかった。臨也は差し障りなく謝罪したが、ぶつかった男はそうはいかなかった。立ち去ろうとした臨也の腕を掴み止める。


「いってぇなぁ姉ちゃん。これ折れたんじゃねえか?どう責任とってくれんだ?」
「…そのくらいで折れるわけないだろ、離せ」
「へぇ、気ィ強いのは嫌いじゃねえぜ。しかも極上の美人ときた。なぁ痛い目あいたくないだろ?ちょーっと大人しくあそこのホテルについてきてくれればいいからさ」


下卑た笑い声をあげる男に臨也はうんざりする。普段ならこんな男一捻りなのだが今の臨也は体力を消耗しきっているし、ナイフも持ち合わせていない。
こうなったら金的でもして悶え苦しんでいるところを逃げるしかない、と考えが回ったときだった。すごい勢いで飛んできた粗大ゴミが男に直撃したのだ。

当然のごとく男は倒れる。池袋でこんなことをする男なんてたったひとりしかいない。


「シズちゃん…?」
「手前、何絡まれてるんだよ。らしくねぇな」
「…あ……」


静雄が臨也に対し手を伸ばすとそれだけで臨也の体は震えた。昨夜の行為を臨也の体はまだ鮮明に覚えている。静雄も臨也の様子の理由にすぐ気がつき、伸ばした手を引っ込めた。


「………昨日は、悪かった」
「ううん、いいよ。それより俺行かなくっちゃ…」
「行く?」
「そう。新羅としばらく距離おきたいんだよ」


臨也の言葉に、静雄はまた予想外な言葉を返した。


「それじゃあ、うち来るか?」
「………はい?」















その頃新羅は粟楠会にいた。粟楠会の人間が撃たれ、弾の摘出や治療などを依頼されたのである。それもつつがなく終わり、今は四木と世間話のようなものをしている最中だった。


「そういえば聞きましたよ岸谷先生。見かけによらず折原さんとずいぶん激しいことをするんですね」
「……けっこう広まってたりします?」
「いいえ、一部だけだと思いますが」


そこで四木は口調と声色を変える。


「あまりやりすぎたことはするな。あいつの仕事に支障が出て困るのはこっちなんだ」
「…気をつけたいとは思ってます」
「思うだけなら誰だってできる」
「おいちゃんも最近の岸谷先生はどうかと思うよ」
「っ!?」


いつ開けたのか、ドアの向こうには赤林が立っていた。その後ろには茜の姿も見える。


「…赤林さん、どうしたんですか」
「お嬢は岸谷先生になついてるからねぇ。せっかく来てるんならやっぱ会わせてやりたいでしょう?」
「新羅お兄ちゃん!」


新羅に駆け寄った茜がそのまま勢いよく抱きつく。周りと比べればひ弱な新羅は「うぐっ」と小さく呻いた。


「茜ちゃん、今日も元気だね…」
「うん!新羅お兄ちゃんはどうしたの?あまり元気ないみたいだよ?」
「う……」


子供というのは鋭いものだ。特に茜は洞察力が優れている。だが何もこんなことを気付かなくていいのに…と新羅は内心ため息を吐いた。


「ちょっと臨也と喧嘩しちゃってね。だから落ち込んでるんだ」
「喧嘩は駄目だよ!臨也お姉ちゃん泣いちゃうよ?臨也お姉ちゃん、新羅お兄ちゃんのことすごく好きだからすっごーく悲しんでるよ!」
「え?」


茜の言葉を補うように四木が続ける。


「折原さんはよくお嬢とお話するんですよ。平和島静雄が何をやらかしただとか、岸谷先生が何をしてくれて幸せだった…とか」
「折原のお嬢ちゃんのノロケ話はすごいよ?おいちゃん3時間以上も付き合わされたことが何回もあるくらいだ」
「臨也が…?」
「最近はあまりきかなくなったからどうしたのかと思えば、まさか喧嘩してたとはねぇ」


臨也が自分とのことを話していただなんて新羅は知らなかった。しかもその内容が自分にとって嬉しいものばかりだっただなんて。だからこそ新羅は、臨也にあんなことをした自分を恥じた。


「折原さんを大事にしてやってください。そうでないと私がもらってしまいますよ?」
「その前に他の誰かにとられるかもしれないから気を付けないとねぇ。弱ってるときに優しくされたらイチコロだ」
「臨也お姉ちゃんと仲直りしてね!絶対だよ!」


三人に勇気付けられ、新羅は臨也と話す決心ができた。

臨也がもう家にいないことも、赤林の言ったような事態になりかけているのも知らないままに。





 
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