もし彼女に声が、首があったのなら間違いなく甲高い悲鳴をあげていただろう。
帰宅したセルティは自宅の惨状に全身の影をざわつかせた。

掃除中の新羅はまだいい。だが問題はソファの上だ。
ソファに横たわった臨也の首の枷。泣きはらした瞼。頭のてっぺんから爪先までをしどどに濡らした白濁と黄金。秘所にはどキツい色をしたバイブがスイッチの入ったまま埋め込まれ、振動にあわせて臨也の腰がはねる。
新羅はセルティの存在に気づくと床を拭いていた雑巾をバケツに投げ込んだ。


「おかえりセルティ。今日も仕事お疲れ様」
『お疲れ様じゃない!!』


セルティは渾身の力で新羅の頬を打った。強打に倒れ込んだ新羅に、高速で打ち込んだPDAを見せる。


『お前は臨也のことが好きなんじゃないのか!?なんでこんなに酷いことができるんだ!!』
「好きだよ、臨也のこと。好きに決まってるじゃないか」
『じゃあなんでなんだ!!』


セルティが新羅の胸ぐらを掴む。だが新羅は怯えるでも何でもなく、ちらりと横目で臨也を見た。


「好きだからしてしまうんだよ。僕だって本当はこんなことしたくないけど自分を抑えられないんだ」
『どういうことだ?』
「臨也が他の男と話してるだけで嫌なんだ。臨也は僕だけと話せばいいのに、ってね。そう思う度に臨也に無理な行為を強いてる。…最低だよ、俺は」


セルティが力を緩めたと同時に新羅は起き上がり臨也の元へ向かった。未だ気を失ったままの臨也の中からバイブを抜き取り床に落とす。途端に溢れ出た大量の精液にセルティは瞠目した。


『新羅…お前…』
「自分でも間違ったことをしている自覚はあるよ。こんなこと許されるわけがない。それでも僕から離れない臨也の優しさに甘えてただけだ」


自重気味に口端をつりあげ新羅は臨也の体を抱きしめる。その腕は震えていた。ぎゅう、とより強く臨也を抱いても震えはおさまらない。


「最近、臨也は一度だって僕に笑いかけてくれたことはないよ。それがどういうことなのか僕はわかっているはずなのにね。本当は大事にしたいんだ。なのにできない。…どうすればいいかわからないんだ」
『…今までの言葉に嘘はないんだろう?ならそれを臨也に伝えればいいじゃないか。酷い拒絶をされることも覚悟しなきゃいけないけれど、新羅の想いだけはきちんと知ってもらうべきだと思う』
「…………そう、だよね。ありがとうセルティ」


新羅が顔を上げて微笑むと、まるで見計らったかのように携帯が鳴った。新羅は臨也をもう一度ソファにあずけ電話をとる。


「はい、もしもし…………ええ、………ええ、わかりました。今から向かいます…………はい、では後ほど」


応対の言葉のみを吐いて切った電話。それだけで大方内容は理解できた。


「……ごめん、今からちょっと出張だ。なるべく早めに戻るけど臨也のことを頼めるかい?」
『ああ、任せておけ。帰ったらちゃんと臨也と話すんだぞ』
「うん。じゃあ、行ってきます」
『行ってらっしゃい』















セルティは新羅を見送ってから改めて臨也と向き合った。間近で見ると行為の凄まじさがよくわかる。
まずは体を清めてやるべきだろうとセルティは臨也を浴室へ連れていった。見える汚れは全て洗い流し、中もやらねばとしたところで臨也が目を冷ました。


「セルティ…?」
『そうだ、私だ。平気か?』
「平気じゃないよ…俺もうわかんない…っ!」
『い、臨也!?』


ぼろぼろ大粒の涙をこぼし始めた臨也にセルティは慌てた。臨也は体を縮こまらせて膝に顔を埋める。小さな体がより小さくか弱く見えた。


「俺は新羅のこと大好きで、どんな仕打ちにも耐えてきた!お仕置きだって言われてすっごく恥ずかしいことでもやった!だけどこんなの絶対おかしいだろ…?なんでもっと早く気づかなかったんだろうね、新羅は俺のこと愛してなんてなかったんだ」
『臨也!それは違うぞ!』
「違くなんてない!!」


ついさっき新羅の本心を聞いたばかりのセルティは否定したが、臨也は一切聞く耳をもたなかった。


「俺は新羅にとってただの玩具でしかないんだ!この首輪もお遊びの一環なんだよ…本格的になってきたでしょ?いくら俺でも、これ以上は我慢できない…っ」
『臨也、新羅とちゃんと話してみろ。臨也の考えてることばかりが真実じゃない』
「………波江さんにも言われたよ。新羅と話してみろって」


幾分か落ち着いたのか臨也は声の調子を通常に戻して呟いた。


「うん、俺やっぱり新羅と話してみるよ。…なんか喉渇いちゃった。ファンタある?」
『うちに炭酸飲料はないぞ』
「えー、ないなら買ってきてよ。今すぐ!」
『…ずいぶん入れ替えはやくないか?』
「女の子はそういうもんなの!ほら行った行った!」


臨也の一瞬の変わりように驚いたセルティだったが、これで新羅と臨也の仲が良くなるのならと小銭を握りしめ近くの自動販売機へ急いだ。

だが、それが間違いだった。

セルティが帰ったとき、すでにそこに臨也の姿はなかったのだ。





 
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