臨也の自宅兼事務所。

静雄はソファにふんぞり返りながら座り、臨也はその隣で動くにも動けずただ大人しくしていた。動いたら殺られる。殺られずとも足の1本や2本簡単に折られる。そう本能が告げていたからだ。ちなみに服装はもういつものものに着替えている。


「………で、なんで手前はいきなり逃げたんだ?」
「いろいろなセクハラの連発でか弱い臨也ちゃんのハートは粉々に砕けちゃったんだよ」
「嘘くせぇ」
「俺は真実しか言ってない」


臨也の言い方が少し問題あるのだが、たしかに臨也は嘘は言っていなかった。静雄の不躾な態度はいつものことで、臨也はすぐに説明を諦めた。そんなことより、今日は本当に疲れてしまったのだ。まだ日も暮れていないのに。


「ねぇシズちゃん、俺疲れた……眠い、寝たい…」
「は?俺を放置して寝るつもりかよ」
「ううん、一緒に寝てほしいなって」


途端に、静雄は頬を赤く染めて眼をそらした。


「あのよ、いくらなんでも昼間から盛るのは……いや、でも滅多に手前からは誘わねぇしな、昼間だって関係ねぇ。わかった臨也、寝室行こう」
「シズちゃぁぁぁん!?」


ひょい、と軽く静雄が臨也を横抱きにして寝室へと向かっていく。無論臨也は抵抗したが静雄にかなうはずもなく、気づけばベッドの上に投げ出され覆い被さるように静雄が臨也の視界を埋め尽くしていた。


「シズちゃん、君は勘違いしてるよ!?俺の言った寝るっていうのはただの睡眠であって君の考えているような卑猥な意味じゃない!」
「なんだ、まどろっこしいな」
「すぐそういう方向にもっていく脳味噌だけでも新羅に解剖してもらえばいいと思うよ」


静雄は残念そうに臨也の上から横へと体を移動させる。重みでギシリとスプリングが鳴った。


「…別に俺、今全然眠くないんだけどよ」
「気合いで寝なよ。シズちゃんならできる」
「手前は俺をなんだと思ってんだ」


臨也は笑いながら静雄に向き合うように体を横にする。つぶれた大きな胸が苦しいのか、少し眉を潜めた。


「寝て、次に目が覚めたらさ、この胸だって元に戻ってるかもしれないでしょ。巨乳なんてこりごりだよ。シズちゃんは巨乳のほうが好きかもしれないけどさ」
「いつ俺が巨乳好きだって言った?」
「あんなに楽しそうに俺の胸触ってた…というか突っ込んでたじゃん。新羅の家で」


じろり、臨也が睨む。だが静雄は動じなかった。


「あれは手前がすげぇことになってるから、つい。それに俺、元のサイズのほうが好きだ」
「…え、どういう意味」
「元のサイズのほうがしっくりくるし、大きさもちょうどいいし。手前が今日みたいにやらしい目で見られるのは気に入らねぇしな」


実際には通常でもセクハラはされるし、いやらしい視線も注がれるのだがそれはおいておく。
静雄の意外な言葉に照れた顔を隠すように、臨也は枕に顔を埋めた。


「い、いいから俺は寝るから!おやすみ!」
「おい、臨也!?」


そのまま頭まで布団を被り、それからすぐに寝息が聞こえてきた。寝るの早すぎだろ、と静雄は某猫型ロボットのアニメに出てくる眼鏡をかけた少年を思い出す。布団をずりさげ、頭をずらしてやれば臨也はあどげない表情で寝ていた。熟睡しているようだし、静雄も言われたとおりに一緒に寝ようかと思った。
だがちょうどタイミングがいいのか悪いのか、インターホンがならされた。


「誰だよ一体…」


めんどくさいと思いながらも、臨也の仕事相手だったら一応出て断っておかなければならないだろうと静雄は動く。階段を降りていき、インターホンの画面に映った人物を見て目をしばたたいた。
知らない顔ではなく、尚且つ臨也の仕事の依頼人というわけでもなさそうな人物。そこにいたのは来良学園の後輩にあたる竜ヶ峰帝人と紀田正臣だった。
とりあえず静雄は通話ボタンを押す。


「おい」
『こんにちは…その声、静雄さんですか?』
『どうもどうも!どうせ臨也さんは可哀想にぼっちで誕生日を過ごしているだろうと思って優しい俺と帝人が来てあげたんだけど……ぼっちじゃなかったみたいですねぇ』
『あの、せめて臨也さんにお祝いの言葉を言いたいんですけど、そこに臨也さんはいますか?』


―――臨也の誕生日とかこつけて下心満載で来てるのはわかってんだよガキ共。

帝人たちが臨也に好意を抱いているのを悟っていた静雄は、少し虐めてやろうと思った。


「悪ィけど臨也は今寝てるから出れねぇんだ。起きてたとしても足腰立たねぇだろうし声も涸れてるだろうから今日は帰ってくれ」
『え、ちょっと待ってくださいそれ…!?』
『まさかの問題発言!?臨也さんにあんた何を…っ』


ブツン。そこで静雄は切った。画面越しのあの驚いた表情。前半は真実を言っていたが、二人の意識は後半の嘘にだけいっただろう。


「新羅が見たら、臨也に似てきたとかぬかすんだろうな」


クツクツと笑いながら、静雄は今度こそ臨也と寝るために階段を上っていった。





 
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