「外に出たい」と最初に言い出したのはデリックだった。
確かにうちに来てからというもの一歩も外に出ていないんだ。健康上でもあまりよくないし、さすがに窮屈だろう。津軽も月島くんもその意見には同意していた。

しかしシズちゃんと同じ顔をした男がコスプレ紛いな服を着てぞろぞろ歩いていたらまた池袋に新たな都市伝説が追加される。だから外に出るには条件をつけた。
ひとつ、外に出るときはひとりずつ。ふたつ、その時は何が起こるかわからないから必ず俺も同行する。嫌がられるかと思えば三人はすんなり受け入れた。シズちゃんと違って素直ないい子たちだ。

そして外に出るならはやく出たい!と俺の予定をおしきって、今日はデリック明日は津軽、明後日は月島くんと外に出ることになったのだった。


「デート〜臨也ちゃんのデート〜っ」
「デリック、恥ずかしいから黙って」
「ええっ!臨也ちゃんとの初デートなのに黙ってなんてられるかっての!」


ぎゅう、と正面からデリックは俺に熱い抱擁をする。やめてここは街のど真ん中だから。真っ昼間から夜の街に似合いそうな白スーツの男が無敵で素敵な女を抱き締めてるって何これドラマの撮影?
やるなら月9かなぁふふふ楽しみ。月9なのに火サスみたいな展開にしてやる。

これはデリックの言う通りデートになるんだろうか。シズちゃんともしたことがなかったのに。けど別に不満なわけではないからよしとする。


「デリック、どこか行きたい場所ある?どこでも連れてってあげるけど」
「どこでもっすか!?絶対っすよ!!」
「はいはい。あ、でもディズニーは無しね。今の時間からだとキツいから」
「大丈夫、俺が行きたいのはもっといいとこなんで!」


デリックは俺の前に膝をついて恭しく腕を差し出す。そしてシズちゃんと同じ作りだとは思えない微笑みを浮かべた。


「お手をどうぞ、お嬢さん?」
「…キザッたらしい。君にぴったりだ」
「ははっ、誉め言葉として受けとっときますんで」


俺は苦笑しながらも、デリックの腕に手を重ねた。別にあんなことをされて嫌な気はしない。

周囲のざわつきが耳につく。それはそうだろう。平和島静雄がホストみたいな格好をして折原臨也と腕を組んでいる…端から見ればそんな状況なのだから。

デリックはここらへんの土地勘があるのかガンガン進んでいく。何か案内などした方がいいのかという俺の心配は杞憂に終わったようだ。
それからしばらく流されるままに歩いていったときだ。突然声をかけられたのは。


「すみません、ちょっとよろしいですか?」
「はあ…」
「私こういう者ですが」


まだ30歳くらいの、人当たりのいい笑みを浮かべた男だった。渡された名刺の企業名を見るからにはスカウトのようだった。


「お二人ともこの雑踏の中で一際輝いていたんです。どうですか?自分の可能性を生かしてみたいとは思いませんか?」


もし、勧誘されたのが頭の弱い女子高生だったとしたらホイホイついていっただろう。でも俺は違う。これが何なのか、はっきり理解している。
断ろうとすると、デリックが俺の手から名刺を取り上げた。


「ふーん………ああ、AVのスカウトかぁこれ。あれっしょ、AV男優にイケメンばっか使ってる。めずらしいっすよねぇAV男優にまでこだわるって」
「じょ、女性が見る際にも楽しめるものを提供するのが目的ですので…」


こうもあっさりと見破られるとは思っていなかったらしい勧誘の男はおどおどしながら視線をさ迷わせた。こういうときの対処法は知らないんだろうな。
このままからかい虐めるのも楽しいけど、今日の俺はそういう気分じゃない。


「行こ?俺はやく行きたい」
「そっすね。今度から声かけるときはちゃんと相手選ぶべきっすよお兄さん!」


高らかに笑うデリックと共に去る。男は涙目になっていたが俺は気にしなかった。


「あーおかしい。きっと今までは事務所に連れてきゃそれで終わりだったんすかね」
「それより俺は君がすぐにAVの内容まで言えるくらい知ってたのかが気になるんだけど」
「俺、年頃ですからぁ」


おどけた調子でいいながらデリックは歩を早める。だんだん人気が少なくなり…ホテル街に向かおうとしていることがわかった。


「デ、デリック!?」
「どこでもいいんすよね?」
「だからって…!」


誰がこんなことを予想しただろうか。俺は身に降りかかる貞操の危機に強張らせて目を閉じると、デリックはどこなの建物に入っていった。鼻腔をくすぐった独特のにおいに、あれ?と思考が止まる。


「ここは…」
「ラーメン屋。こないだテレビでやってたから来たかったんで。ダメっした?」
「ううん、ダメじゃないよ。ははは…」


あんな勘違いをした自分が恥ずかしい。口からは乾いた笑いしかもれなかった。





 
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