津軽とデリック、それとついでにシズちゃんと暮らすことになって数日が過ぎた。この暮らしにも俺は少しずつだけど慣れてきたようだ。

風呂を覗かれそうになったり一緒に風呂に入られそうになったり夜這いされそうになったり…まぁいろいろあってちょっと疲れてたりはするけど。
波江さんには「貴女の純潔は誰に奪われるのかしらね」とやけに真面目な顔で言われた。そんな恐ろしいこと言わないでくれ、俺は純潔を守りきって妖精さんになるんだから。

とにもかくにも、何だかんだで上手くいっていた。
だが、強制イベントというのはそういうときに限ってやってくるもので。


「やぁ臨也!津軽とデリックの定期検診に来たよ!」


扉を開けた途端に満面の笑みで現れた男に「白衣でここまで来たのかよふざけんなよ」と言いたかった。けれどそれを言うより先に驚くべきものが目に飛び込んできて、口から出たのは違う言葉だった。


「……気のせいかな、新羅の後ろにまたシズちゃんが見える」
「あいにくと気のせいじゃないね」


新羅の後ろにはシズちゃんがいた。しかしシズちゃん本体は今津軽たちとテレビを見てるんだ。それにこのシズちゃんはサングラスではなく眼鏡、そしてマフラーをしている。シズちゃんが普通の大学生とかやってたらこんな感じだろうか。
…ここまできたら容易に予想がつく。彼はシズちゃんだけどシズちゃんじゃない、津軽やデリックと同類なのだと。


「…お前の技術さぁ、他のことにまわせないの?」
「僕の技術を一番有効活用した結果だと思うけどね。とりあえず検診に来たんだから上がらせてもらうよ!」
「あ、ちょっ、勝手に入るな!」


俺の制止を無視して新羅は勝手に奥へと向かっていった。残されたのは俺と名前も知らないシズちゃんだ。このシズちゃんみたいな子は俺と目が合うとぺこりと頭を下げた。


「俺は月島っていいます。折原さんのことは岸谷先生から話を聞いてました」
「新羅からってことはろくなこと聞かされてないでしょ」
「いえ、俺のオリジナルである平和島さんや兄に当たる津軽さんやデリックさんまで手懐けたたすごい人だと」
「…それはコメントに困るね」


新羅め、適当なこと言いやがって。
手懐けれるものなら手懐けたいよ。でもあの個性が強すぎる三人を手懐けるなんて釈迦でも無理だ。

思わず顔を歪める俺とは対称的に、この月島というのはふわりと微笑んでいた。あ、やっぱりちょっと新鮮かも。


「どうかした?何か俺の顔についてる?」
「そうじゃなくて、聞いてたよりもずっと綺麗で話しやすい人だと思ったので…。何だか嬉しいです」
「…っ」


何これ可愛い。

なんていうかぎゅってしたくなるようなタイプだ。津軽みたいな軽く腹黒いタイプもデリックみたいな明るい後輩タイプも面白いけど、月島のは天然年下タイプのような気がする。どうしようツボった。


「……ねぇ、月島くん」
「はい」


年下タイプだから、くん付けだ。


「君も俺の家に住もうね!今さらひとりやふたり増えたってどうってことないし。イヤ?」
「嫌なわけないです!よろしくお願いします!」
「よし、じゃあ家上がってー」


俺は月島くんの腕を引いて家に上げた。月島くん顔赤い、照れてるのかな。可愛いぞちくしょう。
真っ直ぐにリビングにいけばそこで検診をしていたらしい。上半身裸で椅子に座っている津軽とデリックがいて俺はちょっとびっくりした。


「うわ、自宅に半裸の男が並んでるってけっこうあれだね」
「あっれー、臨也ちゃん俺の肉体美にドキドキしちゃった感じ?」
「それはないだろう」
「津軽、アンタ冷たすぎ」


コントのような二人の会話を聞き流しながら月島くんをソファに座らせる。すでにソファに座っていたらしいシズちゃんは隣に来た自分と同じ顔をした男に目を丸くした。


「…新羅、手前一体何がしてぇんだ?」
「ただの知的欲求の具現化だよ。臨也も気に入ってくれたみたいだしいいんじゃない?」
「臨也ちゃんが気に入ったってどういうことスか!?」


先に検診を終えたようで、いつものピンク色のシャツを着ながらデリックが月島くんに歩み寄った。


「新入り、抜け駆けしたら怖いかんな?」
「いいか、臨也は俺のもんだから手出すなよ」
「デリックもシズちゃんも何言ってるんだよ月島くん困ってるだろ!月島くん気にしなくていいからね?」
「は、はい」


何が気に入らないのか揃って舌打ちするとシズちゃんとデリックは煙草を吸い始めた。煙い。

くんっ、と不意に服の裾を引かれた。誰かと思えば津軽が俺の服を握っていた。


「津軽?どうしたの?」
「…俺にも構ってくれないと、さみしい」
「ッ」


ヤバいヤバいヤバいときめくところだった…!

若干甘えるような、けれど掠れたような声はヤバかった。多種多様なシズちゃんに囲まれるって改めてすごいと思う。

月島くんも加わったことだし、これからの同棲生活も面白くなりそうだ。





 
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