ふ…と意識が浮上していく。もう朝か。寝起きのぼんやりした頭でカーテンで遮られた先の僅かな隙間から外をうかがう。

起き上がろうとして気づいた。体が重い、動けない。だるいとか風を引いたとかそういうことではない。言葉通りに体が重くて動けないんだ。
それになんか体をしめつけられているような気がするし、布団とはちがうあったかさがある。それにくわえなぜか胸元はスースーしていた。

どういうことか確かめようとして視線をさげたとき、俺は驚愕に叫びだしそうになった。


「――――――――ッ!?」


結局出たのは声にならない叫びだったけどそれで十分だ。
なんということだろう、俺の胸元には金色の頭が埋まっているのが見える。しかも寝間着代わりのパーカーは胸の上までたくしあげられて直に肌に触れていた。
引き離そうとしても俺を抱き締めた腕は優しいようで強い。まったく身動ぎできない。

一体どうしてこうなった。俺は昨日どうしたんだっけ。生まれてこのかた男を連れ込んだことはないというのに、なんで、こんな。

そこで思い出した。俺は昨日から同棲を始めたんだ。シズちゃんと、シズちゃんによく似た顔をした津軽とデリックと。

それで昨夜は流されるようにデリックと一緒に寝ることになって、念のためデリックが寝静まるまで就寝は待って。

大丈夫だ、たとえこんな状況だろうと一線は越えていない。が、この状況はとても人に見せられるものではない。そう思っていた矢先だった。寝室のドアが乱暴なノックをされたのは。


「いつまで寝てやがんだ!さっさと起きやがれ!」
「鍵がかかってる。臨也さん、開けてください」


相手は言わずもがなだった。

しかし、鍵がかかってる?俺は鍵をかけたつもりはない。ということはデリックが一度起きて鍵をかけ、寝ている俺の服を乱して抱きついてまた寝た、と。なんでこんな危ない男を引き取ってしまったんだ。

けれどもっと危ない男がドアの外にいる。今のこの状況を見られたら…と思うとゾッとする。


「デ、デリック!早く起きて離れて、死にたいの!?」
「うー…、いざやちゃんのえっちぃー……」
「変な寝言言うな起きろ!!」
「むー…」


デリックは全然起きる様子がない。低血圧か、低血圧なのか。
ドアからはガコン!という音がし始めていた。本格的にヤバい。俺はとりあえず隠そうと胸元のデリックはそのままに布団を首までかけた。デリックは息苦しいだろうけど、このくらい耐えてもらえなくちゃ困る。
そしてタイミングがいいのか悪いのかわからないけど、派手な音を立ててドアが外された。


「いーざーやー?おはようの時間はとっくにすぎたぞ?」
「知らないなぁそんなこと。俺は君におはようよりごめんなさいを言ってほしいんだけどね」


綺麗に外れたドアを見ながら言う。もしも毎日こんなことをされたら大変だ。仕方ないけど寝室の鍵はもうつけるのをやめるしかない。


「すみません。ドアを外してしまって」
「津軽が謝ることじゃないよ。悪いのは全部シズちゃんだから」
「んだと手前」
「静雄さん、落ち着いて」


今にも殴りかかりそうなシズちゃんの腕を津軽が掴む。ただ軽く掴んでいるように見えるけど、シズちゃんの怪力を止めるだけの力があるんだ。津軽だって侮れない。
シズちゃんは仕方なくだけどおとなしくなり、握りしめていた拳を開いてプラプラさせた。


「あー…そういえばデリックはどこ行ったんだ?」
「たしかに、姿が見られない。おかしい」


じっ、とふたりの視線は俺の布団へと向けられる。なんて目敏いんだろう。
…まぁ明らかに異様なくらい盛り上がってるからそりゃ気づくだろうけど。


「…デリックはそこか?なんで隠してるかは知らねぇけどよ、臨也に変なことしてねぇだろうなぁ!」
「あ、シズちゃんだめ…!」


俺が押さえてもさして意味がなく布団は簡単に取り払われた。デリックが二人の前に姿を現す。まだ俺が起きたときと状況が変わらなかった。
この状態だと俺の剥き出しの胸は二人にばっちり見られる。津軽はガン見して、シズちゃんは顔を真っ赤にして目をそらした。シズちゃん、昨日風呂に侵入してくるくらいの度胸があったのになんで今純情になるの。

津軽は特に気にしないように近づいてくるとひょいとデリックの首根っこを掴んで廊下に放り投げた。「ぐぇっ!」と蛙が潰れたような声がする。
俺は自由になった腕で一先ずパーカーをおろした。


「えっと、ありがと津軽」
「いや。デリックは任せてほしい、制裁する」
「…だんだん君のキャラが掴めてきたよ」


シズちゃんが短気じゃなくてちょびっと大人しくなったの、それが津軽なようだ。
で、本体であるシズちゃんは何ごとかぶつぶつ呟いていた。


「ちくしょう…俺ですらしたことないのに羨ましいことしやがって…!」


ごめんシズちゃん。ノーコメント。





 
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