家に通しリビングへと向かうとソファには俺の右隣にデリック、左隣に津軽が座った。シズちゃんは津軽の隣で俺から離れてる。…シズちゃん、あからさまに殺気振り撒かないでよ。

重苦しい空気が室内を包む。なんで誰もしゃべらない。やっぱここは俺から何か話題をふるべきなのか。しかしこういうときに限って何も浮かばない。
だってよく考えなよ。シズちゃんの顔が3つあってそれに囲まれてるんだよ?これで普通に対応できたらちょっとおかしい。むしろ称賛に値する。

どうしたものかと困り果てたとき、口を開いてくれたのは津軽だった。


「…寝床」
「え?」
「俺たちはどこで寝ればいい?」
「そっか、それも決めなくちゃね」


至極真っ当な意見に少し驚く。やっぱシズちゃんとは違うんだなこの子。
いくら急に決まったからといっても、俺の家に成人男性3人を寝かせるスペースなんてない。いや、広さだけはあるけど空いている部屋がない。やっぱ後先考えずに決めるのはよくないね。


「んー…じゃあ床に布団しいて寝てくれる?念のために昔敷き布団買っておいたんだけど、まさかこんなところで役に立つとはね」
「俺はそれでいいっスよ」
「俺も…」
「却下」
「は?」


拒否を示したのはシズちゃんだった。なんだよ、シズちゃん家も敷き布団なんだから問題ないだろうに。


「嫌なら帰れば?シズちゃんにはちゃんと家があるんだから無理してここで暮らさなくたっていいでしょ」
「俺も絶対ここに住む。そして俺は臨也と一緒にベッドで寝る。手前のベッド広いんだから2人くらい平気だろ」
「平気かもしれないけど…」


脳内で自分の寝室の様子を思い浮かべる。散らかしていないし見られて困るものも放置していない。ベッドもシズちゃんの言う通り2人くらいなら大丈夫だろう。だけどそれどこの新婚だ。


「えーっ、それズルくないっスか!?俺も臨也ちゃんと寝たい!」
「俺も臨也さんとなら寝たい」
「ちょっと待って4人はさすがに無理だからね!?ただでさえ君たち図体でかいんだから!」


デリックと津軽まで俺と寝たいと言い出したせいで、3人の間にバチバチと火花が散った。


「ざけんじゃねぇぞ、臨也は俺のだ。誰が得体の知れねぇ手前らと寝かすか!」
「得体の知れない…って俺たちはアンタから生まれたようなもんっスよ?だから静雄のモノは俺のモノ。臨也ちゃんも俺のモノ!」
「臨也さんは渡さない。絶対」


あー、こいつらが喧嘩したら俺の家なんて簡単には壊れるんじゃないか。いや、間違いなく壊れるん。シズちゃんはもう顔中に血管浮かび上がってるし。


「俺、風呂入ってくるから。家のもの何かひとつでも壊したら追い出すからね」


めんどくさいから俺は逃げた。聞いてるかどうかわからないけど俺はちゃんと言ったからね。文句は言わせないから。
お湯はもうわかしておいたからすぐに風呂に入れる。衣服を脱いでかごに放り込むとすぐに浴槽に浸かった。温度調整を間違えたのかいつもより少し熱い。

そういえば一緒に暮らすってことはあの3人もこの風呂に入るってことだよね。体洗うスポンジとか買ってこないと。今日は…うん、素手で頑張ってもらうしかない。
他に何を買うべきか考えていたとき、浴室の扉をノックされた。


「誰?」
「臨也さん、俺です」
「…津軽?」
「はい」


声だけで判断するのは難しいけど、俺への呼び方で何とかわかった。声同じって不便だよねやっぱり。


「どうしたの?あの2人何か破壊した?」
「いや、まだ口論してるだけ。決着つくのはまだ当分時間かかると思う」
「そう。で、君はどうしたの?」
「俺は臨也さんの背中流してあげようと思って」
「………え?」


ガチャリとノブに手がかかる。ちょっと待って俺全裸!タオルも何もない!


「つつつ津軽!?開けないで!ね!?」
「扉越しに話すの、辛いから」


そういう問題じゃないだろこの野郎。止めてもどうにもならないとわかった俺は急いで入浴剤をぶちまけた。お湯が濁るタイプのものでよかった。これでお湯に浸かっている限り裸は見られない。
そうしたところで羽織を脱ぎ腕を捲った津軽が入ってきた。デリカシーってものがないのか。


「ねぇ津軽、一体何がしたいの?」
「せっかく住まわせてもらうのに何もしないのは悪い。俺にできるのはこのくらいしかないから」
「何も気にしなくていいよ。そんなことしなくていいからさ」


何かしようという精神だけは歓迎するけど、背中流しはどこかずれてるだろ。そう思って断ったのに津軽はシュンとしてしまった。あれ、落ち込んでる?


「やっぱり、俺がいるのは迷惑ですか?」
「そ、そういうわけじゃないから!ただほら、俺女だし、背中流しとかは恥ずかしいし…」
「なら、よかった」


うわ。ふわりと微笑んだ津軽にキュンときてしまった。思えばシズちゃんにこんな風に笑いかけてもらったことないし。
…なんか背中流しくらいさせてあげてもいいような気がしてきた。津軽は何の下心もなさそうだし、シズちゃんと違って可愛いし。つい了承しようとしたとき、扉が乱暴に開けられた。


「何抜け駆けしてやがんだ津軽ッ!!」
「臨也ちゃん貞操は無事っスか!?」


シズちゃんとデリックまで浴室に入ってきてもうギュウギュウだ。俺だけ全裸で、服着た男が3人いるってどんな状況だよ。今こそが正に貞操の危機じゃないのかこれ。


「あ、臨也ちゃん。一緒に寝るのは話し合った結果ローテーションで代わり代わりになったんで。今日は俺となんでよろしくお願いします!」
「ああ、うん。わかったよ」
「臨也に手ェ出したら殺すからな…!」
「俺から手出さなくてももしかしたら臨也ちゃんの方から誘ってくるかもしれないっしょ?」


2人の間にまた火花が散る。津軽はといえば不機嫌そうに舌打ちしていた。え、君ってそんなキャラだったっけ。

それよりさ…


「いつまでいるつもりだよこの変態どもっ!」


さすがに今の状態を平常にしないでほしい。
俺は洗面器でお湯を掬うと3人にむかってぶっかけた。





 

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