!臨也視点










インターホンが鳴った。来客を告げるそれはオートロックである玄関の方ではなく自宅用のものであった。
タイミングよく下の入り口で出る人なり入る人なりがいて開いていたところを入ったんだろう。俺は頭の中で今日の予定を確認する。今日は来客の予定も仕事の予定も入ってない。波江さんも休み。というか彼女ならインターホンを鳴らすわけがない。

突然の訪問客を不審に思いながらも足は玄関へむかっていく。もちろんいつでもナイフを取り出す準備はできていた。
俺は警戒しながらゆっくりと扉を開き、そこにいたのは………

シズちゃんだった。


「…あ、れ?シズちゃん?」


シズちゃんは俺を前にしてにこやかに笑っている。ちょ、どうした。怖い。
しかもシズちゃんはいつものトレードマークなバーデン服じゃなくて白スーツにピンクのシャツを着ていた。なんかデリヘルっぽい。ホストな感じもするけどデリヘルのほうがしっくりくる。いつから取り立て屋からデリヘルに転職したんだこいつ。


「…シズちゃん、俺はデリヘルを呼んだ覚えなんて一切ないよ。帰ってもらえるかな」
「…アンタが臨也ちゃん?」
「はぁ?」


つい顔をしかめてしまったのも無理はないだろう。シズちゃんはまるで初対面のような反応をしたんだから。それにキレてる状態でもないのに臨也ちゃんなんて呼ばれるだなんておかしい。変だ。

…本当にシズちゃん?
そんな疑問が頭をよぎる。けれどこの身長差も顔も声も全部が俺の知ってるシズちゃんだ。
なのに、この心のわだかまりはなんなんだろう。


「あれ?臨也ちゃん?どうかしたんスか?」
「デリック……臨也さん、困ってる…」
「…はぁあ!?」


ひょっこり。まさにそんな擬音をつけるのがふさわしく白スーツシズちゃんの後ろから顔を出したのは着流しを着たシズちゃんだった。
シズちゃんがふたりいる。目を擦る。まばたきをする。しかし俺の前にはふたりのシズちゃん。…目眩がしそうだ。


「シズちゃん…分裂するなんてやっぱ化け物だね…」
「あの、臨也さん。俺たちは静雄さんだけど静雄さんじゃない」
「え?」


着流しシズちゃんが言った。ただ、すぐ理解するには難しい言葉だった。


「ちょっと、どういうこと?」
「あー、詳しいことは岸谷先生に聞いて?岸谷先生がぜーんぶ知ってるんで」
「新羅が?」


新羅の名が出ただけで嫌な予感しかしなかった。俺は携帯を取りだし、登録してる番号にかける。電話はまるでスタンバイしていたかのようにすぐにとられた。


『やぁ臨也元気かい?僕もセルティも元気だよ!君が電話してきた理由は…ああ、ちょうどついた頃だしね、静雄に似たふたりのことだろう?』
「何がどうしてこうなった。洗いざらい吐け」
『女の子がそんな乱暴な言葉づかいするものじゃないよ』
「うるさい、さっさと言え」


だんだんイライラしてきた。目の前に新羅がいたら絶対ぶん殴ってやるのに。それができないのがさらに俺を苛立たせた。


『まぁまぁ。あのふたりは静雄のクローンみたいなものだよ』
「ふざけてるの?人間のクローンなんてそんな馬鹿な話…」
『時代は日々進化してるんだよ、臨也。それに君が化け物扱いしてる静雄だよ?その気になれば簡単なことさ』
「………」


呆れて物も言えなかった。首なしライダーや妖刀がいるくらいなんだから、クローンができたっておかしくない…のか?
俺が黙ったのを何ととらえたのかは知らないが、新羅は楽しげに言葉を続けていく。


『臨也にとっては悪いことばっかじゃないと思うよ?そのふたりは元は静雄だけど性格は全然違う。見ればわかるだろう?いろんな静雄が見れるだなんて人間観察が趣味の臨也にとって面白いことだろうし、そうじゃなくても静雄に囲まれるんだから…ね?』
「…う」


少し心が揺らいできた。いや、もう揺らぎまくっていた。新羅にのせられてる気がしないでもないけど、俺にとって面白いのは事実だ。受け入れてやろうじゃないか。


「そうだね、面白い。実に面白いよ」
『だろう?あとさ、ふたりには住む家がない。だから…』
「俺の家に住まわせろって?」
『よくわかるね。お願いできるかい?』
「別にいいけど。ねぇ、君たちは俺の家で暮らすことになってもいいの?」


俺は黙って俺の電話を聞いているクローンシズちゃんたちにたずねた。ふたりはすぐに頷いて、不満はないとみえる。ふたりくらい余裕で養えるからね。こんな面白いことを簡単に手放す俺じゃない。


「じゃあふたりは俺が引き取るから」
『ありがとう!あ、名前はピンクの瞳がデリックでブルーの瞳が津軽だから』
「どこから出てきたんだよ」
『それは気にしないで。あと……静雄はクローンをつくったことも、クローンを臨也に引き取ってもらうことも知ってる。だから…静雄も、一緒に住まわせてやって』
「は?」


聞き捨てならない言葉が聞こえた途端に俺の携帯が後ろから何者かによってとられた。さっきの会話の流れからすると丸わかりだけど、振り返ってみればそこにはやはりシズちゃん本物がいた。


「俺のクローンが手前と住むのに俺だけ別居って不平等だよなぁ?」
「だってシズちゃんには家あるじゃん」
「手前は誰のモンだ?」


ばん!と俺の顔すぐ横の壁を殴られる。壁は驚くくらい簡単に沈んだ。あ、これ、機嫌損ねたら殺られる。


「俺はシズちゃんのモノです…」
「だろ?」


シズちゃんは俺の返答に満足すると勝手に家に上がっていった。もうため息しか出ない。
顔をあげると、先ほど名前を知ったばかりのデリックと津軽がすぐ近くにいた。


「これからよろしくなっ!」
「臨也さん、お世話になります」
「あはは…よろしくね…?」


こうして、俺とシズちゃん×3の同棲生活が始まった。





 
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