青空様ネタ提供作品
『臨也が他の人の声に夢中になってしまい、静雄が嫉妬して耳元で言葉責め』
臨也がパソコンの前から動かない。俺がいるというのに、だ。
いや、俺がいても臨也は仕事がたて込んでるときは気にせずパソコンとにらめっこしてるんだが今は仕事をしている素振りは一切見せていない。それもそうだろう、仕事は昨日あらかた終わらせたと言っていたのだから。
臨也はヘッドフォンをして、どこか楽しそうに何かを聞いている。画面には特に面白そうなものは何も映っていない。となるとヘッドフォンで聞いている内容がとても気になるわけだがそれを俺が知れるはずもなく。
一応恋人の俺がすぐそばにいるっていうのに、何なんだこの臨也の態度は。少々ムカついてしまう。
「臨也」
名を呼び掛けてみる。しかし反応はない。
「いーざーやーくん」
もう一度名前を呼ぶ。やはり反応はない。
「おいノミ蟲」
返事がない、ただの屍のようだ。
そこで俺はついにプッツンきた。
「だぁああああうぜぇえええええ!!返事くらいすれや!!」
「うわっ!?」
全ての元凶であるヘッドフォンを臨也の頭部からひったくるように外す。そうするとヘッドフォンとパソコンを繋いでいたコードが外れ、今まで臨也が聞いていた音が洩れた。
『まったく、ほんっとーに駄目ですよね臨也さんは。死ねばいいのに』
「…は?」
聞いたことのある声だった。
臨也は俺から顔を隠すように机に突っ伏している。おい、ちょっと待て。
『え、もっとそんなんじゃなくて他のこと言えって?俺だっていきなり声録音したいから何か萌えること言えなんて言われて困ってんですけど。萌えること…ってやっぱツンデレ?べっ別にあんたのこと好きじゃないんですからねっ!みたいな?』
そこで臨也の「ツンデレは正臣くん通常営業だからもっと他のこと言ってよー」という声が入る。
『俺がツンデレとか臨也さんやっぱ頭おかしいですって。あー…声真似でもしてみます?俺けっこう似てるって言われるんですよ。俺がガンダムだ!!とか僕が新世界の神になる!とか。…え?刹那っぽく告白してくれ…ってそんな無茶な。愛している…ガンダムの次に、って感じですか?うっわ報われないっすね』
そこまで聞いたところで俺は、スピーカーを握りつぶしていた。
「あああああ何するんだよ正臣くんがぁああああ!!」
「うるせえ!これはどういうことだ!?なんで手前紀田の声聞いてんだよ!!」
「だってめちゃくちゃいい声なんだもん!!」
臨也は顔をあげると拳をぎゅっと握り締め力説しだした。
「正臣くんの声すっごいの!耳に残って離れないというか、気がついたら正臣くんボイスでいろいろ再生されるというか!わかってこの気持ち!」
「わからねえよ!わかりたくもねえし!」
「なんでわからないの正臣くんの声に一緒にハァハァしようよ!!」
「断る!!」
恋人が他人の声にハァハァしたがってます。これは浮気でしょうか。
そんな質問を投げかけられたら俺は迷わず浮気だと答える。ってなわけで浮気だこれは。
でもあくまでこいつは人ラブで声ラブなだけで紀田ラブなわけではない…と信じたい。それにこいつはもう病気みたいなもんだからこの症状も仕方ない、気にしても無駄だ。
そうはわかっていてもやはり気持ちのいいものではない。俺が一番好きだって言ったくせに。俺の声より他の野郎の声のがいいってのかよ。
…そんなの絶対許さねえ。
「………臨也」
「なに……、わっ!!」
正面から臨也を抱き締める。ぎゅうっといつもより力を込めて密着して、柔らかい耳朶に軽く歯をたてる。ぴくんっと臨也の体が跳ねた。
「臨也…臨也、愛してる」
「んッ」
「俺だけじゃ満足できねえのかよ。手前は俺だけの声を聞いてたらそれでいいだろ?」
「ふゃ…っ」
臨也が好きだと言った低い声で囁くように言葉を紡ぐ。そのたびに臨也は体を震わせ、俺からは耳まで真っ赤になっているのがわかった。
「手前が言ってほしいこと、なんでも言ってやるから。なんだったっけか、ツンデレ?別に手前をどろどろのぐちゃぐちゃに犯したいなんて思ってねえんだからな…ってか?」
「シズちゃん耳元で言うのやめて!俺、憤死しちゃう…」
「すればいいじゃねえか」
俺の声だけで力が抜けてしまっている臨也の体を横たえて覆い被さるように体を合わせる。臨也の心臓の音、すげえ早い。
「なあ臨也、手前の一番好きな声は俺だろ?俺が一番だろ?」
「うん…っ俺、シズちゃんが一番…正臣くんもいいけど、シズちゃんがいい…っ」
「じゃあ紀田の声なんていらねえだろ。手前は俺の声だけ聞いてればいいんだよ」
「うん…っシズちゃん、大好き!」
その後、4時間くらい声の録音に付き合わされたが臨也が本当に嬉しそうだったから許してやるよ。
世界中の誰よりも何よりも、俺があいつの一番だから…な。