アリサ様ネタ提供作品
『四木さんが超人気BL作家で腐女子候補の茜に頼み込まれて静臨を書く』










「四木さん四木さんっ!今日イザヤお兄ちゃん来てるのっ!?」


嬉々として尋ねてきた茜に、四木はそれまで扱っていたノートパソコンを閉じた。

四木は記憶を巡らす。確かに臨也は今、情報提供のため粟楠会へと出向いていた。


「ええ、来てますよ。それがどうかしましたか?」
「うんっ、イザヤお兄ちゃんが来てるなら会いたいなぁって。だめかなぁ」
「折原さんなら喜んで会ってくれますよ。私も会いたいですし用事が終わったようでしたら連れてきてもらえますか?」
「わかったよ!」


笑顔で部屋を出ていく茜を眺めながら、四木もまた少し微笑ましい気分になった。
しかし茜がなぜ臨也になついているのかだけが疑問に残る。しかも臨也だけでなく静雄にもなついているのだ。四木は茜の行き着く末を考えると僅かだが不安になる。

自分が考えても仕方がない、と四木は先ほどとじたパソコンをつけ直した。すぐに先ほどの画面が表れる。それはびっちりと文字で埋め尽くされていた。


「…多少息抜きしても、明後日には終わりますかね」


誤字脱字がないかと確認しながら四木は呟く。一見すれば重要文書を作成しているようにも見えるが、それは若干だが違う。重要といえば重要なのだが、四木が書いていたのは臨也や新羅が大好きなボーイズラブだった。

実はここだけの話、四木は副業としてボーイズラブの作家もしているのだ。粟楠会でそれを知る人物は恐らくいない。
しかし四木は作家としてはその筋ではかなり有名である。シリーズ長編をメインとしているのだがこれが人気で、つい先日にはドラマCD化もされた。深夜放送でアニメ化することも近い未来にはあるかもしれないし、そうでなくともOVA化する可能性が高い。四木の人気はそこまでのものだった。

四木は今日はもうここまでにしようとシャットダウンする。そうしたところでタイミングよく扉が開かれた。臨也と手を繋いで茜がやってきたのだ。


「四木さん連れてきたよ!」
「こんにちは四木さん」
「お久しぶりですね折原さん」


心なしか四木は臨也が嬉しそうに見えた。なぜか、と思っているとすぐに理由は見つかった。


「……見本としてできたものでよければ差し上げましょうか」
「はい!サイン付きで四冊お願いします!」


すごく幸せそうにしている臨也を断ることは四木にはできなかった。
臨也が求めたのは数週間後に発売になる四木の新刊だ。すでに見本として四木の手元には何冊か届けられている。それがほしかったのだ臨也は。なんとわかりやすいことだろう。

四木はさらさらと自分のペンネームでサインをして渡す。臨也はそれを受けとると諭吉をニ枚差し出した。


「三千円もあればお釣りがくるくらいの値段なのにずいぶんと気前がいいですね」
「本当ならそれ以上出したっていいんですが今は手持ちが少なくて。あ、店頭で通常版も限定版もちゃんと買いますからご心配なく!」


目を輝かせながら言う臨也に、こんなファンもいるんだなと感慨に更ける。今渡した四冊だって一冊は読書用、一冊は保存用となり、残りの二冊は友人へ授けられるのだろう。情報屋として活動する臨也と、この趣味に向かって突っ走る臨也のギャップには度々驚かされる。

四木から離れた臨也は茜の相手をしていた。茜にあわせてソファに座っている。四木は手下に茶をいれてくるようにと告げた。
そうしてるうちにも茜は楽しそうに臨也に語りかけている。


「それで!?それでシズオお兄ちゃんはどうしたの!?」
「シズちゃんはいつもと変わらず標識を引っこ抜いて俺めがけて投げつけたよ」


どうやら静雄の話をしているらしい。四木は会話に入らないまでもしっかりとそれを聞いていた。


「それが俺にかすっちゃってね。自分が投げたくせにシズちゃんびっくりしてさ、慌てて俺に駆け寄ったんだ」
「イザヤお兄ちゃん怪我したの?大丈夫?」
「うん、平気。でもシズちゃんは馬鹿みたいに心配したんだよねぇ」
「だって大好きな人を傷つけちゃったらショックだよ!」


臨也を静雄の大好きな人と言っている茜に少しどきりとしたが、それは子供だからそう言っているのだろうと四木は納得した。

それからも遊ぶというよりは臨也の一人語りのようなものが続き、気がつけば何時間も過ぎていた。臨也が帰るのを玄関まで見送ったあと、茜は四木の手をぎゅっと握った。


「どうかしましたか?」
「あのね、お願いがあるの」
「お願い?」


四木はあまり願い事などしないのにめずらしい、と単純に思った。だがその後の茜の言葉に四木の何かが崩壊した。


「私、どんな内容かはわからないけど四木さんが小説書いてるのは知ってるよ!だから私に書いてほしいの。イザヤお兄ちゃんとシズオお兄ちゃんがラブラブしてるお話!」
「………え」
「シズオお兄ちゃんがガンガン攻めてるお話がいいなぁ。ね、四木さんお願いっ!」


純粋な眼差しで恐ろしいことを言うものだから子供は怖い。茜が腐の世界に入りかけていることに四木は目眩がした。

結局、茜の頼みを断りきれなかった四木が執筆を開始するのは原稿を上げてからすぐであった。





 
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