世の中には「男の娘」というものがある。読みは「オトコノコ」であり「オトコノムスメ」ではない。これを「オトコノコ」と読むことができれば8割型そういう系の人だとみなしてもいいだろう。
ただしそういう系ではない2割に位置する人物がいることも忘れてはならないので、男の娘が読めたからと言って安易に仲間だと判断するのは危険である。

男の娘とは基本的に容姿や精神が女の子のような少年、青年をさす。たとえばセキレイの椎菜くんなどがそれに当てはまる。
「男の娘なんて引っ掛かるのはどうせ腐女子だけだろw」と思ったら大間違いだ。男の娘は男性にも根強く人気があるのだ。ふたなりが人気なのだから当たり前といえば当たり前である。

つまりここで言いたいのは男の娘は男女問わず人気なのであり、素晴らしい萌だということであった。


「…と、いうことでわかったかな?正臣くん」
「すみませんさっぱりわかりません」


一連の長い説明を臨也から受けた正臣は、疲れはてた表情できっぱりと言った。
臨也はその返答が予想できていたようで何事もなかったかのように紅茶を口に運ぶ。

「んー。まぁ俺が君を読んだわけが理解できたとは思うけど」
「…俺が理解したのが間違ってたらいいと心から思うんですけどね」
「はい、言ってみよう」


ニマニマと、表現するならまさにそれが相応しい笑顔を浮かべる。正臣はとっさに紅茶をこの顔にぶちまけたい衝動にかられたが、そこはなんとか抑えた。あっていてほしくはない、理由を告げることにする。


「……臨也さんは、もしかして俺が…その、男の娘だと言いたいわけじゃ…ないですよね?」
「その通りだよ!正解!」
「あああああッ!!」


正臣は叫びながらテーブルに突っ伏した。彼としては最悪の回答が返ってきたのだから無理もない。
そんな正臣の気持ちなど全く考えない臨也は、楽しそうに正臣の頭をぽふぽふと撫でた。


「だってさぁ、話してたんだけど、正臣くん目大きいし可愛いし、身長だってちょーっと背の高い女の子くらいだよ?沙樹ちゃんと並んでたら百合カップルに見えるし。リアルな男の娘、いいね!」
「いろいろと突っ込みたいとこはあるんですけど、誰とそんな話してたんすか」
「え?沙樹ちゃんだけど?」
「沙樹ィイイイイ!!」

自分の恋人が自分のことを男の娘と評していた事実に正臣は現実から逃げ出したくなった。しかし目の前のこの最強の腐男子がそれを許すはずがない。


「だからさ、せっかくの貴重な男の娘なんだし、少し可愛い服でも着てもらおうかなと思ってね」
「俺はいいですあんたが着てください」
「せっかく沙樹ちゃんと一緒に選んだのになぁ」
「あんたは沙樹を一体どうしたいんだ!」


ばん!とテーブルを強く叩く。衝撃で紅茶が少々溢れた。
しかし臨也はきょとんとしているだけである。


「やだなぁ、俺の信者になったときから沙樹はもう腐ってしまったんだよ。俺の信者はみんな腐るからね、すごいだろ?」
「すっごい最悪な人類補完計画じゃないですか。あんたにわかるか!彼女にBL妄想される男の気持ちが!」
「へぇ、沙樹ちゃんはなんて言ったの」
「う…」


問いかけられた正臣は顔を真っ赤にして反らし、どもりながらも伝えた。


「『正臣はたくさんたくさん恋をして、たくさんの人を愛して、たくさん愛されて、私の事なんか忘れちゃっていいの。ただし男に限る』…って……」
「ははっ、さすが沙樹ちゃんじゃないか!良いこと聞いたから今月の給料二倍出してあげるよ!」
「何がさすがだ馬鹿野郎!」


正臣にとっては笑い事ではないのだ。だが臨也はそんな正臣を驚くようなことを口にした。


「それなんて可愛いもんじゃん。俺は高校時代からシズちゃんで妄想してたけど」
「……は?」
「他校の生徒けしかけていつ輪姦ルートに発展するかわくわくしながらモブシズ妄想したり、生活指導で引っ張られていったシズちゃんを教師が性的なお仕置きしてくれるかなってドキドキしたり?楽しかったなぁ…」


懐かしみながらとんでもないことを語る臨也。正臣は自分よりずっと哀れな静雄を思うと涙が出そうだった。


「静雄さん…なんであんたなんかと今でも付き合ってるんですかね…」
「本当に好きなら恋人が腐ってようが自分で妄想しようがかまわないもんだよ。だから正臣くんだって沙樹ちゃんと付き合ってるでしょ?」
「そりゃ沙樹が腐ってようが腐ってなかろうが俺は沙樹のこと好きだし…」
「ね?そういうもんさ」


なるほど、と納得すると正臣は新しくいれなおされた紅茶に口をつける。悔しいけれど美味しかった。


「そういうわけだからさ、沙樹ちゃんのためにも着ようよ。正臣くんなら絶対似合うよこのスカート」
「…臨也さんも着るなら考えてあげてもいいですよ」


だからサービスするのだって、沙樹のためと紅茶が美味しかったからなんだ。
それに、なんだかんだ言っても正臣は臨也のことが好きなのだから。





 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -