!静雄視点










「よぉ静雄」


話しかけられた方向へと視線を向ければ、そこにいたのは門田だった。高校からの友人である門田とはたまに会っているが、こうして街でばったりと会うのは久しぶりな気がする。


「今日はあの車乗ってねぇのか?」
「いや、近くに止めてる。仕事終わったのか?」
「ああ、ついさっき」


ほんの数十分前に終わった仕事の内容を思い出す。アダルトビテオのレンタル期限破りまくったおっさんのところだった。そのおっさんがすっげぇ見苦しい言い訳をするもんだからつい手が出ちまった。こっちは暴力なんてしたくねぇのに。


「……静雄、手」
「あ」


無意識のうちにかたく握っていた拳には気持ち悪いくらいに血管がびきびきと浮かんでいた。指摘されてすぐに手を開いてパタパタ振る。ダメだダメだ、落ち着け俺。
門田は苦笑しながら俺の様子を見流すと、肩に手を置いて言った。


「静雄、これから時間とれるか?お前を探してたんだ」
「暇だけど…俺何かしたか?少なくとも今日はノミ蟲を殴ったりはしてねぇぞ」
「そうじゃなくて狩沢が呼んでたんだよ」
「そうなのか」


狩沢が俺にどんな用事があったかは知らないが、どうせ今日はもうやることがないんだからと門田についていくことにした。
いつものワゴンはすぐ近くで待機していて、中には渡草と遊馬崎がいる。車内で流れるBGMはよく臨也が聞いていた歌と似た声をしていた。臨也が聞いていたのは機械っぽい声だったがこっちは人間らしい。
車内にいたのはそのふたりだけで、肝心の狩沢の姿は見られなかった。


「おい、狩沢は?」
「今日オフ会なんだとよ。もう終わったってメール来たからこれから駅まで迎えにいくんだ」


オフ会という言葉はよくわからなかったが、狩沢を迎えにいくことがわかればそれでよかった。俺もワゴンに乗り込み、渡草の運転で駅まで進んでいく。
その間遊馬崎にいろんなアニメの話をされたが俺にはさっぱり理解できなかった。臨也ならきっと楽しんで会話するんだろうなと思いながら聞き流していた。

そうこうしているうちに駅につく。全身真っ黒で特徴的な狩沢はわかりやすかった。


「迎えにきてくれてありがとね!ゆまっちこの袋いれてくれる?」
「おおっ戦利品大量っスね!あれ、狩沢さんその人は?」
「友達よ!」
「ちょ、その人本当に三次元っスか!?二次元キャラがそのまま三次元に出てきた!?」


窓から見える狩沢の隣には女がいた。長い黒髪を後ろで高く結い上げ、白いロングワンピースを着ているその人物は清楚なお嬢様というような感じがする。狩沢の友達ということは清楚とはほど遠いだろうが。
顔はここからじゃよく見えなかったが、門田からは見えているのかみとれているのがすぐわかった。門田がみとれるなんてめずらしい。


「甘楽ちゃんっていうんだけどね、すっごくシズちゃんに会いたかったらしくてオフ会終わってからそのまま連れてきちゃった!」
「俺に?」


不本意だが池袋の自動喧嘩人形と称されている俺に会いたがるなんてどんな女かと思った。ひょい、とドアの陰から顔を出せば甘楽と呼ばれていた女と目が合う。
大きな瞳はちょっとつり気味で赤みがかっていて、桜色の頬にそれよりも少し濃いめに彩られた唇はぷるんとしている。美女っていうのはこういうやつのためにある言葉だと思った。

だが、こいつは美女ではない。俺にはすぐわかった。美女なんかでは、断じてない。
車から降りて甘楽の頬に手をそえる。と、俺は薄い頬肉をつまみその手を左右に広げてやった。


「い、いひゃいいひゃいいひゃい!」
「静雄!?お前何してんだ!?」
「なんでこんなカッコしてんだよ、臨也」
「臨也ぁ!?」


門田の驚きの声と共にパッと離してやればすぐさま涙目でナイフを突きつけられた。ああ、やっぱり臨也だ。


「まさかこんなすぐにバレるだなんて思わなかったよ。やっぱ女に見えなかったかな?」
「ううんイザイザすごい女の子だったよ!他のみんな気づいてなかったし!」
「…一体どういうことだ?」


疑問をそのまま口にすればご丁寧に説明してくれた。
今日はオフ会というものがあって、それに狩沢と臨也が参加する予定だった。しかし臨也以外はみんな女性なため、男性の臨也がいては気を使ってしまうだろう、ということで女装して誤魔化したらしい。「腐男子だって大変なんだよ」と臨也は言う。


「それにしてもクオリティ高いですね。まさか臨也さんが女装のプロだっただなんて!」
「ああ、これは波江が全部やってくれたんだよ。あの人俺に女装させるのと弟が生き甲斐みたい」


波江、ってのはたしか臨也のとこな美人な秘書だったと覚えてる。ただけっこう性格キツかった気がするが。あの人が臨也をこんな完璧に女みたいにするとは驚きだ。


「ねぇねぇシズちゃん似合う?シズちゃんこういう感じ好きでしょ?」
「え、シズちゃんってお嬢様系好きなの?通常イザイザみたいな女王様系だと思ってた!」
「何だよそれ」


狩沢と笑い合う臨也は女にしか見えなかった。というかこんなに仲良かったのか、知らなかった。

俺はいつもの臨也のほうが好きだったが、あえて口には出さないでおいた。




 
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