!来神時代










「萌が足りない!」


教室の角、窓側の一番後ろの席で臨也は熱く拳を握って叫んだ。何の因果か知らないが臨也を囲むような席となっている静雄、新羅、門田は一人は楽しげに、二人はなんとなくそれに耳を傾ける。会話にのったのは楽しげに耳を傾けた新羅だ。


「どうしたんだい臨也?今朝は萌充電してこなかったの?」
「ぬかりはないよ、ちゃんとガンダム見てきたから。アスキラ結婚しろ!」
「アスシンもいいけどね!」
「じゃあアスラン浮気だね!ヘタレのくせになんだよアスラン超萌える」
「臨也、岸谷。もうちょっと落ち着け」


これ以上の暴走を防ぐために門田が制止をかける。そこで二人は一時的にだがおとなしくなった。
静雄はアスキラやアスシンが何なのかは理解していなかったが、ソッチ系の話であることだけはわかった。


「じゃあアスキラアスシンは一先ずおいといて…。萌充電してきたのに萌が足りないってどういうことかな?」
「やっぱりさ…学校の中でも萌が必要だと思うんだよね。例えばA組の佐藤君が鈴木先生と付き合ってるとか」
「ああ、あの二人イイ雰囲気だよね!どこまでいってるんだろ…」
「もちろん最後までに決まってんじゃん!」
「やっぱり!?わー!!」


新羅が臨也の両手首を握りブンブンと上下に振る。新羅は萌が一定量を越えると行動で表すのだ。
腐男子ではない門田とこの4人の中で一番一般人に近い静雄にとっては正直反応に困る話である。


「そうか…佐藤と鈴木付き合ってたのか…」
「静雄、あいつらの妄想だからな。付き合ってないからな」
「あ、そうなのか」


普通に勘違いしてしまう静雄も無理はないだろう。臨也がいうと胡散臭いことでもなんでも本当に聞こえてくる。

それから臨也は新羅の腕振りがおさまると教室全体を見渡した。


「佐藤君と鈴木先生もいいけどさ、やっぱりもっと身近で楽しみたいよね。同じクラスとか」
「同じクラスは話聞かれるからやめろ」
「じゃあ話聞かれても困らない人にする!」
「…そう言ったら僕らの中にしかいないんだけどね」
「あ」


4人の中に静寂が流れた。互いが互いの顔を見合わせ、それぞれがいろんな感情が混じり微妙な表情をしている。

最初に動いたのは臨也だった。新羅の肩をがっしり掴むと吐息がかかるくらいに顔をよせボソボソと話す。


「ねぇねぇ、シズドタ?ドタシズ?」
「えー…ドタシズ?静雄が喘ぐの聞きたい」
「よし、じゃあドタシズで…」
「机発射用意、標的ノミ蟲と変態眼鏡」


筒抜けだった二人の会話は当然静雄の耳にもはいり、静雄はめずらしく至極冷静に臨也の机を持ち上げていた。


「ああああシズちゃん待って待って待ってぇええ机の中には『僕の中にえっちなミルクちょーらい?世界のショタは淫乱小僧』がぁあああ!!」
「なんだよそのセンス悪いエロ小説みたいなタイトル!!」
「正真正銘エロ小説だよ!話も面白いし何よりイラストレーターが俺の大好きな人なんだ!」


持ち上げられたままの机の中から本を抜き出すと臨也はそれを静雄に見せつけた。表紙は女の子ような顔をした少年が何も身にまとわないでいる足を投げ出していて、その周りには縦笛やらランドセル等の小学生代表グッズが描かれている。
静雄は絶句し、机を落とした。当然といえば当然の反応だ。


「あれ?シズちゃーん?絵に魅了されちゃった?」
「絶対違うと思うぞ」
「あ、そのイラスト九十九屋さんだね!?いつ発売したの!?」
「昨日!九十九屋が挿し絵してるのは発売日当日に買うんだから!!」


九十九屋真一。それは臨也を含め多くの人から人気を得ているイラストレーターだ。男性向け、女性向け問わずこのような卑猥な小説の挿し絵からライトノベルの挿し絵までそつなくこなすやり手である。


「お願い読み終わったら貸して!臨也が手に入れられなかった限定版の例のアレ貸すから!」
「ほんと!?ありがと新羅愛して…るぁあああ!?」


臨也の語尾が悲鳴へと変わった。なぜか。それは静雄が臨也を担ぎ上げたからだ。


「シシシシズちゃん?どうしたのネジぶっとんだ?」
「その小説だかドタシズだかシズドタだか知らねぇけどよぉ、俺とイチャつけねぇからそんなこと考えちまうんだろ?悪かったなぁ今なら屋上誰もいないだろうし思う存分イチャつこうじゃねぇか」
「いや、俺の妄想は自然の摂理…!誰か助けてぇえええ!!」
「臨也がんばってぇええ応援してるよぉおお!!」
「薄情者ォオオ!!」


臨也の叫びもむなしく、静雄は教室の外へと消えていった。

残された門田と新羅は、乱れた机、椅子の配置を元に正す。


「門田くんごめんね。実は僕が一番好きなのはドタシズじゃなくてシズイザなんだよね」
「…俺もそのほうがいい」


友人たちはシズイザを激しく推奨しているのだった。






 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -