そしてプレゼントにそんな希少なものばかりを贈っていた門田と新羅に、嫉妬心が湧き上がるのも仕方がないというものだろう。
当然静雄も自分たちが恋仲になる前のことだとはわかっているため女々しく口には出さなかった。その代わりに握った拳は血管が浮き出て今にも破けそうになっていたが。拳を振り上げることだけは必死にこらえて声を絞り出す。

「なあ、もうちょっと一般的なものとかねえのか……?そういうレベルの高いものじゃなくてよ……」
「一般的?うーん……、食べ物とかかな?」
「食べ物なら臨也は大トロが好きだったな」
「おおとろ?」

聞き慣れない単語だった。食べたこともなければ見たこともない。この地域にはないであろう食べ物だ。

「大トロというのは東の小さな島国の民族料理でね、寿司っていう一口大に握ったご飯の上に魚の切り身をのせたものの一種なんだ。20年くらい前に臨也が一人旅して食べてきたんだよね。その後僕らがむりやり呼び寄せられたんだけどそれが意外と美味しくて……」

吸血鬼の一人旅は夜しか活動できないのに大変だったんじゃないか、とか吸血鬼でも魚を食べるのか、とか静雄は思ったが深くは考えないようにした。
大トロは説明されても結局わからないし、臨也に贈れもしないだろう。参考になりそうな案はなかなかあがらなかった。

「もういっそ誕生日おめでとうって言うだけでいい気がしてきた……」
「僕が昔それをやったら、翌年の誕生日に嫌みったらしくすごく豪勢なものをもらったよ。『今年の誕生日は期待してるよ』ってメッセージカード付きで」
「マジかよ……」

静雄の苦悩は終わらない。頭をかきながら横を見れば門田が何やら考え込んでいるようだった。「これはだめだろ」「でも臨也は……」としきりに呟いている。

「どうしたんだ?門田」
「いや……非常に言いづらいんだが……、吸血鬼には血をあげるのが一番じゃないかと思ってな……」

門田の発言はまさしくその通りであった。当たり前すぎて今まで浮かばなかったのである。名案だとばかりに新羅は手を叩いた。

「僕たちは人間じゃないから血をあげたことはないからね!血がいいんじゃないかな!」
「ちょっと待てよ、血を吸わせたら俺が吸血鬼になるんじゃねえの?」
「直接吸われたらそうなるね。だから献血したのなら平気だと思うよ」

蚊は吸血の際にタンパク質などの生理活性物質を含んだ唾液を送り込むという。
吸血鬼の場合は自分の遺伝子情報を含んだ唾液を送り込んで相手を吸血鬼にするというのが新羅の見解だ。なので献血した血液をグラスにでもいれて飲ますのなら何も問題ないのではないか。体外に出した血を飲まれたら、離れていても血の持ち主が吸血鬼になるというのは少々考えがたい。
そうなるともはやそれ以上のプレゼントはないように思えた。無事に臨也へのプレゼントが決まったのである。しかし新羅が献血の準備をしている間に、門田が申しわけなさそうに頭を下げてきた。

「悪いな。本来プレゼントなのにお前の血を抜く羽目になって……。あまりいい気分はしないだろ?」
「いいんだよ。それにこれが最適だと思うから、案出してくれてありがとな」
「でもな……」
「静雄ー!準備できたよー!」

そうして気にかけてくれるところはひどく人間らしい。気にするなよと軽く門田の肩を叩いて、新羅に導かれるままベッドに横たわり献血を開始する。

「どのくらい血抜くんだ?失血死寸前までとかいうなよ」
「それも捨てがたいけどだいたい400mlかな。コップ2杯分くらいだね。だいたい10分から15分で終わるよ。静雄なら貧血にもならないだろうから安心して。じゃ、針刺すよ」


新羅が腕をとる。痛みに備えて静雄が軽く目を閉じているとバキンッという音がした。痛みはなかった。嫌な予感しかしないが一応訪ねてみる。

「おい、どうした?」
「あはははは針折れちゃった。静雄の肌はどうなってるんだろうねぇ」
「ちょっと待てよ!じゃあ血はどうなるんだよ!」
「落ち着いてよ僕も頑張るから!門田くんも手伝ってー!」

新羅が静雄の腕を押さえつける。門田は折れた針を見ただけで何が起こったのか悟り、新しい針を手に取った。

「どこに刺せばいいんだ?」
「えっと……、ここ。ここに容赦なく思いっきり刺しちゃって。刺殺するくらいの勢いでいいから」
「わかった」

なんとも物騒極まりない会話である。門田は言われた通り懇親の力で針を刺そうとするも、力加減を間違えればすぐに針は折れてしまった。

「困ったなぁ……。針が刺さらなければどうにもならないよ」
「俺が自分で針を刺すのはどうだ?」
「静雄は無事に針を刺したとしても、刺して安心した途端に体内で針を折りそうだから絶対にだめ」

針を片手に攻防は続く。結局献血ができるまでに、数10本もの針と献血に要する以上の時間が犠牲となったのであった。





 

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