新羅の家は古城からそう離れてはいない。徒歩でも30分かからずに着く。ただし、正規の道を通らないで臨也に教わった抜け道を用いての時間だが。

軽くドアをノックすると足音が近づいてくる。新羅のでもセルティのでもない足音だ、と耳のいい静雄は気づいた。開かれたドアの向こうには、新羅とは似ても似つかない体格の良い青年がいた。

「なんだ、門田がいるなんてめずらしいじゃねえか」
「まあな。岸谷は今電話中だから代わりに俺が出迎えたんだが……、とりあえず入ったらどうだ?」

導かれるままに室内に入る。ちょっと進んだ先で、顔をだらしなく歪めた新羅が幸せそうに通話をしていた。話しかけても無駄だろうし、静雄が来たことにすら気づいていないだろう。門田がいなければ家の前で待ちぼうけにされたかもしれない。

門田は元々は臨也の友人であり、臨也から紹介されて知り合った。二人が一緒に暮らし始めてひと月ほど経った頃だった。臨也の友人というからには門田も人間ではないらしいが、どんな種別なのかは静雄は知らない。見たところ普通の人間にしか見えないが、人は見かけによらないとは正にこのことだ。

「ほら、コーヒーでいいよな?」

「サンキュ」

勝手知ったるなんとやらで自然にコーヒーをついだ門田がカップをおく。砂糖とミルクを足そうとしたところで、コーヒーが黒くなく白にほど近い茶色であることに気づいた。明らかに手を加えたコーヒーだ。頭に疑問符を浮かべていると門田が苦笑混じりに頭をかく。

「臨也がよく、静雄はミルクをたっぷりいれたコーヒーが好きだって言ってたからな。ブラックの気分だったんなら余計なことしたか」
「いや、大丈夫だ」

小さくおじぎをしてコーヒーを啜る。お子様でも楽に飲めるような軽い苦味のそれを、静雄はとても美味しそうに飲んでいた。コーヒーの味はもちろん、臨也が自分のことを楽しげに話す様子を想像すると嬉しかった。門田が覚えてしまうほどたくさん言ったのかと思うと愛らしくてたまらない。

「ああ、うん!じゃあ楽しんできてね!愛してるよセルティ!」

ようやく新羅の電話は終わったらしい。相手はやはりというべきか彼の最愛のセルティだった。電源ボタンを押すまでずっとニコニコしていた新羅は、電話を所定の位置に置くなりびくりと肩を震わせた。

「し、静雄いたの!?もう、いたならいたって言ってよ!」
「やっぱり気づいてなかったか……」


呆れ混じりに息をつく。このやりとりももう何十回もやっているので慣れたものだ。
三人はそれぞれ等間隔でソファに座る。花がないと新羅は嘆いていたが静雄が片腕を振り上げるとすぐに黙った。

セルティは何ヶ月かに一回のペースで一人旅をする。新羅も同行したいと駄々をこねるが、一人旅には一人旅の良さがあるのでセルティもそれだけは断るそうだ。普段べたべたくっついてるくらいだからちょうどよさそうだが、代わりにしつこいくらい電話するそうだからあまり一人旅の雰囲気を味わえてないかもしれない。
セルティがおらず傷心の新羅が呼び寄せたため、門田は今ここにいるらしい。めんどくさいことになるとわかっていても来る門田は偉大な男である。臨也なら気分がのらなければ間違いなく無視していた。人間性の格差だ。

「そういえばさ、静雄は今日はどうしたの?何か用が会ってきたんでしょ?」
「ああ、そうだった。明日実はよぉ……」
「明日?確か臨也の誕生日だったよね」
「そうだな」

二人は当然臨也の誕生日を知っていたが、ついさっき気づいたばかりの静雄は少し胸が痛んだ。彼らは静雄よりずっと付き合いが長いため仕方ないのだが、そう言葉で割り切れるものでもない。
もやもやした気持ちを抑え込むように再びコーヒーを飲んだ。

「で?臨也の誕生日がどうかしたのかな?」
「あー……、らしくねえってのはわかってるんだけどよ。俺の誕生日の時にはいろいろしてもらったから、何かしたほうがいいんだろうと思って……、でも何をすればいいのかわかんなかったから、相談に来た」

恋愛相談大歓迎の看板を掲げる新羅は瞬く間に目を瞬かせた。門田も新羅の制止役を兼ねると同時に相談に乗ってくれるようだ。持つべき者はいい友達である。

「参考程度に俺たちが今までやってきたことでも言うか?」
「そうだね。火鼠の衣とか天の羽衣とか、天狗の扇もあげたね……。一番高価だったのは死神特注の棺だっけ?」
「そうだな。まあ棺売りの死神なんて生涯で数えるほどしか会えないしな。臨也もとても喜んでただろ」
「吸血鬼のくせに棺じゃなくてベッドで寝るから、ただのオブジェになっちゃってたけどね。もったいない」
「それに、あれなんか……」

静雄の存在なんて忘れてるんじゃないかというくらいに、臨也へ今まで贈られたプレゼントが次々にあがっていく。自分には到底手に入れることのできない品々に、頭はどんどん下がっていった。





 
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