草木は芽吹き、済んだ空の広がる季節。春とも初夏ともいえる今の時期を静雄はこよなく愛していた。なんていったってひなたぼっこが気持ちいい。むしろそれが一番の理由といえるだろう。
静雄は町外れの古城に同居人と二人で住んでいる。庭にビニールシートを広げてのびのびと寝転がっても、人が通りかからないのだから誰に見られる心配もない。暖かな陽気は眠気を誘うには十分だ。小鳥の囀りが子守歌代わりとなり、静雄は眠りの世界に引き込まれていった。

「うわ、日光浴びすぎるのは体に悪いよ。普通の人体にも影響あるんだからね」

……眠りの世界に片足突っ込んだところで、無体な声に起こされる。顔をあげれば城の窓の中から臨也が見ていた。室内だというのに肌を全く出していない。顔以外は完全に衣服に包まれていた。

「手前も来たらどうだ?気持ちいいぞ」
「シズちゃんは俺に死ねって言ってるの?太陽なんてなくなればいいのに……」

そう言い残して引っ込んでしまう。静雄はやれやれというふうに寝返りをうった。こればかりは体質の問題なのでいくら頑張っても変えようがない。

臨也は吸血鬼だ。日の光に弱い、人間の血を吸う強敵だった。


そして静雄は祓魔師だった。二人は幾度となく命をかけて争いあった仲だ。ある戦いを最後にして二人は共に暮らすことになったのである。静雄が臨也を屈服させたあと互いの恋愛感情が発覚したのだが、ここではあえて割愛しよう。
共に暮らすには臨也が人間の血を吸うことをやめること、静雄が祓魔師をやめることを条件とした。元々この古城は臨也の私物で、静雄があがりこんできたのだった。

二人が共に暮らすようになってから約半年が経つ。変化として臨也は血を吸う必要がなくなったため、なるべく静雄の生活時間帯に合わせようと努力した。夜行性の吸血鬼である臨也だが昼過ぎには目を覚ますようになり、何時間か静雄と過ごす時間も増えたのだ。

臨也は誰かに血を吸われて吸血鬼になったのではない、純粋な吸血鬼である。にんにくや十字架などは平気だが、銀の銃弾や日光は天敵だった。しかし銀食器は平気だし臨也自身好んでいるようだから不思議だ。
日光を浴びるとよく言われるように皮膚が焼けただれる……というわけではないが、激しく体調を崩すらしい。だから窓の付近に立つことだって、本当はすごく辛かったはずだ。それでも自分に会いに来たのだと思うと静雄は嬉しかった。


「イザ兄ー!イザ兄ー!」
「兄(兄さん……)」

城壁の外から姦しい声が城主の名前を呼ぶ。この声の主を臨也は苦手としていた。夜ならまだしも日があるうちに会うのはおそらく無理だろう。中に入れるわけにはいかないため、静雄は衣服をただして声の主に会いに行った。

「おいお前ら、臨也はこんな昼間から出てこれねえぞ」
「あっ静雄さん!久しぶりー!」
「久(ご無沙汰してます)」

同じ顔の少女たちが二人揃って頭を下げる。おとなしいのが九瑠璃、活発なのが舞流という名の双子で、遥か昔に臨也に血を吸われて吸血鬼になった少女たちだ。完全な吸血鬼ではないため、二人はこうして日光を浴びても平気である。
人間を愛してる臨也は血を吸うときは一滴残らず最後までをモットーとしていたが、二人は唯一臨也の気まぐれで中途半端に血を吸われて今に至る。二人はそれを恨むでもなく臨也を兄として慕っているが、それが吸血鬼の習性なのかもしれない。

「それで、今日は何しにきたんだ?」
「兄、生(兄さんはもうすぐ誕生日なの)」
「誕生日?」

臨也にも誕生日なんてあったのか、と当たり前のことに驚いてしまう。双子たちはそれを気にも留めなかった。


「うん、5月4日だよ。だから祝ってあげようかと思ったんだけど……、今年は静雄さんがいるからいっか!帰ろ!」
「了(うん)」

二人は何をすることもなく嵐のように去っていった。しかしそのおかげで臨也の誕生日の情報を知ることができたのである。

「誕生日か……。4日って明日じゃねえか」

もう少し早く伝えてくれればよかったのに、と内心苛立ちながら静雄は立ち尽くす。誕生日ならばやはり何かするべきだろう。静雄の誕生日の時は、教えてもいないのに臨也は大量のご馳走とケーキ、静雄の夢だったバケツプリンまで用意していたのだから。やられっぱなしというのは愉快ではない。

しかし誕生日といっても何をすればいいのかわからなかった。双子が来なければ臨也の誕生日を知ることもなかったくらいだ。準備も何もしていなければ、臨也が何に喜ぶのかも知らないのだ。

「……困ったときは新羅のとこだな」

新羅とはデュラハンを妻とする、臨也と静雄共通の友人の一人だ。臨也との付き合いは静雄より新羅の方が何倍も長い。だから彼ならば臨也の好むものも知っているだろう。
もはや相談所となっている新羅の家へと、静雄は急ぐのであった。





 
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