あいつの言うことなんか聞いたってろくなことにはならない。人を自らの言葉で引っ掻き回し、弄んで笑うような男だ。最低のゲス野郎。真実を語るはずの口からは虚構しか述べられない。甘い言葉で惑わし喰らう。悪魔のような男だと、俺は思う。それは昔から微塵も変わりやしない。

「ゲームをしようか、シズちゃん」
「ああ?」

悪魔のような男、もといノミ蟲、もとい折原臨也は俺に道路標識突きつけられながら言った。このまま気にせずに脳天かち割ってしまえば俺の勝ちだったのに。タイミングを逃してしまっては標識を下ろすしかない。代わりに臨也が逃げられない程度には距離を詰める。

「ゲームだぁ?どうせ見逃してほしいからって適当に言ってるだけだろ」
「違うよ。俺はシズちゃんから逃げ回ってる間にずっとゲームのことを考えてたの。だからわざと捕まってやったってわけ」

言い訳めいて聞こえるが、たしかに俺が捕まえる直前に臨也が速度を緩めたのは事実だ。嘘か本当か見極めながらの臨也との会話は本当に疲れる。
ゲームなんていって俺を騙して何かしようという魂胆だろう。誰がそんな手にのるか。標識を強く握り直して臨戦態勢を整える。
しかし臨也はそれを見透かしたかのように俺の手の上に自分の手を重ねた。

「悪い話じゃないと思うんだけどなぁ。シズちゃんが勝ったら君の言うことをひとつ、なんでも聞いてあげよう。もう二度と関わるなというなら君の前から完全に姿を消すし、死ねというならビルの屋上から飛び降りてあげる」

またそうやって大袈裟なことを言って、実際負けたらこんな条件なんて反故にすると思った。しかし臨也の目は真剣そのものだ。臨也の嘘ならあらかた見分けがつく。今回は嘘を言ってるようには思えなかった。

「……本当だろうな」
「もちろんさ。なんなら誓約書を書いたっていい。当然俺が勝った暁にはシズちゃんに俺の言うことをなんでも聞いてもらうわけだけど、いいね?」
「それを決めるのはゲームの内容を聞いてからだ」

簡単に頷くものではないと今までの経験から嫌というほどわかっている。ここは慎重にいかなくてはならない。それもそうか、と呟いて臨也は俺から手を離した。

「ゲームは簡単、おいかけっこさ。いつもはシズちゃんが追いかけてくるから、俺が鬼をやるよ。制限時間……そうだな、2時間ってところだね。シズちゃんが2時間逃げ切れればシズちゃんの勝ち、俺がシズちゃんを捕まえられたら俺の勝ち。道具の使用はOK。ね、これならどう?」

ルールは単純明快、俺でも理解できるものだった。俺に分があるようにも思える。何せ自分で言うのもなんだが俺の体力は規格外だ。たとえ2時間ぶっ通しで全力疾走したとしても平気だろう。逃げる術だって心得ている。正直言って負ける気がしない。

「……いいじゃねえか。やってやるよ、そのゲーム。だけど範囲はどうするんだ?まさか都内全域……は絶対ないとして、池袋全域とか言うわけじゃねえだろうな」
「それはさすがに無理があるよ。安心して、来神に話をつけてあるからさ。舞台は学校だ」
「…………は?」

いきなり母校に話をつけてある、と言われてもうまく頭が働かなかった。そりゃ学生時代にはおいかけっこ……というよりもっと酷いものをしょっちゅうした。俺たちが卒業してからもう5年以上経つ。それなのに学校に入ることができるのだろうか。臨也は俺の顔をじっと見つめてからくすくす笑う。

「……そんなのできるのか、とでも言いたげな顔だね。できるよ。この時間帯なら部活動の生徒もいないし、本来ならいるとこもあるけど早くあげさせたし。俺たちが在学中にお世話になった先生もいるからちょっと脅し……、お願いしたら快く引き受けてくれたよ」
「今脅しとか言わなかったか?」
「言ってないよ」

わざととしか思えないほどはっきり、本人曰く言い間違えたらしい言葉を指摘しても仕方がない。脳裏に俺が入学した当初は髪の毛がふさふさだった担任が、卒業のころにはすっかり禿げ上がっていた事実が浮かび上がった。担任にはいろいろと迷惑をかけてしまった。臨也も同罪だ。

経緯はどうであれ場所は懐かしの来神高校と決まった。俺たちは少し距離をとって、これまた懐かしい通学路を歩いていった。





 

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