目を覚ました臨也が一番最初に思ったことは、「死後の世界はなんて自室に似てるんだろう」ということだった。見慣れた部屋はどこからどう見ても自室のそれと同じだった。
臨也はこれまで何があったのかしっかり覚えている。静雄が押し掛けてきたことも、その後静雄に何をされたのかも全部だ。媚薬に忘却作用まではなかったらしい。結局気を失ってしまったが、静雄からしてみれば臨也を殺すには他ならない状況だったはずだ。臨也は自分があっけなく殺されてしまったのだと確信したが、不思議と心は穏やかだった。

「三途の川とか見てみたかったんだけどねぇ。興味あったのに。残念だなぁ」

そんなのんきなことを言いながらベッドから降りるも、力が入らず床にへたり込んでしまった。まったく足腰が立たない。死んでまで性交の余韻を引きずっているのだろうか。だとすると静雄のせいだ。呪ってやろうか、と呟いた。
臨也がしばし虚空を見つめているとドアが開いた。現れたのは静雄だった。

「……シズちゃんまで死んだの?心中しちゃった?」
「はあ?」

臨也としてはここに静雄がいるというのはありえないことだった。
しかしこれが自分が死んだのではなく、まだ生きているという証明にもなった。ほっとするよりも先に大きな疑問が残る。

「ねえシズちゃ……」
「ああ、シャワー借りてきたんだ。手前も行ってきたらどうだ?まだ俺の、中に残ってるだろ?」
「な……!?」

臨也が真っ赤な顔をして後ろに指をやればぐちゃりと濡れた感触があった。おそるおそる指を眼前にもっていけば、わずかに赤色の混じった白い液体がこびりついている。人差し指と親指を合わせ、それからゆっくり離すとにちゃあとした糸が繋がった。後処理すらしてくれないのか。目眩がした。それでも臨也は気力で耐えた。

「シズちゃん!俺を犯したことは……、まあいいだろう。なんで俺を殺さなかった?あんなに俺のことを殺したがってたじゃないか!」
「なんだ手前、殺されたかったのか」
「違う!けど、気に入らないんだよ。俺が納得するような説明をしてもらわないと許さない」

静雄はドアから臨也のもとまで歩いてくると隣に腰をおろし、胸元から煙草を出して吸い始めた。まったく静雄を見る度祓魔師の定義がわからなくなる。聖職者の風上にもおけない。静雄は美味そうに煙を吐きながら、横目で臨也を見た。
「……最初は懲らしめてやるつめりできたんだよ。あの媚薬だって新羅から聖水だって聞いてもってきたし」
「うん」
「それが媚薬で、なんやかんやで手前とヤっちまってよ……。手前みたいなクズとヤったってのに、なんでだろうなぁ……。なんで手前のこと好きになっちまったんだろ」
「うん…………、うん!?」

一度は聞き流してしまいそうになったが、臨也はそうすることはなかった。目を大きく見開いて僅かに震えながら静雄と対峙する。

「あ、あのさ……体の相性がよかったから、それで好きだって言ってるの……?」
「違うっての。普通に好きだ。愛してる。さっきわかった」
「うわあああああシズちゃんが狂ったぁあああ!」

叫んで床を這いながら逃亡を試みる臨也だが、当然そんなことできるわけがなかった。腹這いになった臨也の上に岩のように静雄が乗っかって、臨也は完全に身動きがとれなくなった。

「別に狂ってねえし。ちゃんと人の話聞けよ」
「嫌だ。聞く耳もたない。俺とシズちゃんは分かり合うことなんてできないんだよ」
「そんなにまた犯されてえか」
「……聞けばいいんだろ、聞けば!」

臨也にとってあの性交は軽くトラウマになったらしい。
額に浮かぶ汗の量が尋常じゃなかった。

「手前人間らしい生活できるんだろ?無理に血を吸う必要もないらしいし。なら一緒に暮らすぞ。手前が人間の血吸いに行かねえか監視してやる」
「ちょっと、どうしてそうなるのか全く理解できないんだけど!」
「だって手前も俺のこと好きだろ?」

静雄は絶対的な自信をもって言った。臨也は口をぱくぱくと開閉させる。

「ふ、ふざけたこと言わないでよ!俺は吸血鬼で君は人間で……」
「種族の壁なんて関係ねえよ。手前はどうしたいんだ?それが答えだろうが」

しばらくの間、臨也は黙っていた。何分経っただろう。ようやく動いた臨也は静雄の身につけていた祓魔師の証、十字架のチョーカーに手をかけ、それを握りつぶした。

「君が祓魔師という立場を捨てるんなら、考えてあげてもいいよ」
「もっと別の言い方ねえのかよ。色気も何もねえ」
「色気なんていらないよ。君の寝首かいてやるんだから!」
「上等だ!」












それ以降、吸血鬼の被害にあう娘たちはいなくなったという。代わりに誰もいないはずの古城から人の気配がする、という都市伝説が新たにできたが、それはまた別の話だ。





 

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