力の制御を考えながらの行動がスムーズにいくはずもない。ましてや力を制御することほど静雄の苦手なことはないのだから。静雄はしばらく小瓶との格闘を繰り広げた。もしかしたら小瓶は臨也よりも強敵かもしれなかった。こんなこと言ったら臨也が哀れである。

しかしやはり真の強敵は臨也なのである。静雄は身に迫った殺気を敏感に察知し、小瓶を持ったまま頭を下げた。するとさっきまで静雄の頭があった部分を二本のナイフが通り過ぎていく。ナイフは床と平行に壁に突き刺さった。静雄の背後で舌打ちが鳴った。

「俺の城へようこそ……、とはいっても主人の就寝中に勝手に上がり込むなんて不躾にもほどがあるから歓迎したくないなぁ。帰ってくれない?俺はまだ寝足りないんだからさぁ……」

そう言うと臨也は頭まで布団を被った。単に寝起きの悪い子供のようだ。天敵が目の前にいることをちゃんと理解しているのだろうか。いや、してない。
だからこそこれは静雄のチャンスだった。臨也がこの様子なら聖水だって普通に飲んでしまいそうだ。そうなったらもう静雄のものだ。そうと決めればさっさと蓋を開けなければならない。
蓋はコルクだ。引っ張れば容易く抜ける。だが静雄の場合力を入れすぎると割れてしまいそうだ。

結局「割れたら割れたでいいか。どうせ聖水なんだから一滴二滴余ったのでも効果あるだろ」と何とも投げやりな結論に達した。ちなみに普通の祓魔師はこんなことを考えた上で聖水を使用することは皆無である。ある意味吹っ切れた静雄はいとも簡単に力をこめ、抜いた。小瓶は割れなかった。心配は無用だったらしい。
蓋を開けた途端に小瓶の中で充満していた香りが溢れ出した。甘ったるくて胸焼けがしそうだ。香水をつけすぎた残念な香り、というのが一番的確な表現かもしれない。聖水ってこんなものなのかと静雄が顔をしかめた。

「……うわ、何なのこの香り……!ありえないって……!」
「うおっ!?」

臨也は布団をはねのけて出てきた。静雄の手にある小瓶を見た途端に顔を青ざめさせる。静雄はその顔色の変化を見逃さなかった。

「なんだ、これが手前にとってやばいもんなのは本当みたいだな……」
「シズちゃん、その薬の本当の使い方知らないんじゃないの?そういうのは女の子に使いなよ」
「はあ?」

臨也が何を言っているのか静雄には全く意味が分からなかった。
魔物に使うはずの聖水を女性に使う必要なんてない。聖水を前にして怯えているからそんなおかしな言動をしているのだと静雄は解釈した。
とにもかくにもこの聖水が弱点なのは変わらないらしい。なんとしてでも静雄は臨也に聖水を飲ませる、またはぶっかけなければいけない。先手必勝、静雄は銃を抜いた。

「ちょっ……!人の部屋でそんな物騒なもの出さないでよ!」
「俺だって本当は銃なんて使いたくねえんだよ!誰のせいでこんなの使わなきゃならねえと思ってやがる!」
「ああああああ!」

臨也が避けるたび壁に穴があいていく。悲鳴をあげながら部屋中を逃げ回る臨也といったら滑稽だった。
そもそも今の静雄は臨也を撃つつもりはない。部屋の隅に追いやるための誘導だ。そして今まさに臨也は目的の場所にいる。思い通りに事が運びすぎて静雄は愉快だった。

「おとなしくしろ!」
「ぐっ!?」

静雄は布団をひっつかむと臨也に向かって投げた。視界を遮られ布団に体を押し倒された臨也の、さらに上に静雄が乗り上げる。マウンドポジションだ。臨也に逃げ場はない。静雄の下で臨也が悔しげに眉を寄せている。

「……こんな形で死ぬなんて考えたことなかったな」
「手前その気になれば霧になって俺から離れるのも可能だろ。こんな体勢とったって意味がない」
「なんだ知ってるんだ。まあそういうわけだから、俺は逃げ……ひあっ!?」

言い終わるより先に聖水を臨也にぶちまけた。口を開けていたからきっと少しは飲んでしまっただろう。
ここから先どうなるかは静雄にはわからない。臨也の様子が変わっていくさまを眺めていた。

「は、ぁ……くそ、新羅だろこれ……」
「ああ、新羅が俺にくれたんだ。恨むんなら新羅も恨めよ」
「次会ったら殺す……」

臨也の頬は桜色に染まり息も荒くなっている。額に浮いた汗を拭いながら睨む目も潤んでいる。えろいな、と思ってしまって静雄は顔を背けた。臨也相手にこんなことを考えるだなんてどうかしてる。

自分の目的を思い出して静雄は拳を握った。臨也を再起不能なまでに殴ってやろうじゃねえか。静雄が拳を振り上げる。それと同時に臨也は静雄の腰に抱きついた。

「な!?」

勢い余って静雄が倒れる。臨也は抱きついた体勢のまま、静雄の股間のにおいを嗅いでいた。

「おい、やめろよ!変態か!」
「んっ……ふ、ぅうん……」

臨也は恍惚とした表情で静雄の股間に擦りよる。
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