あの人の背中をずっとずっと追いかけた。あの人が見ているものを見たかった。そしていつか追い越してやると思って走った。でも追いかけても追いかけても、きっと追いつくことはない、あの人はそんな人なんだ。

「ぐはー参りました…」
「あははっ楽しかったよ十代君」
彼は笑ってカードを集め始める。そのしなやかな指先が綺麗で思わず目が止まった。この指先からあんなコンボが出せるなんてやっぱり遊戯さんはすごいな、なんて馬鹿みたいなことを考えた。
「どうしたの?」
「あっいえなんでもないです!」
そんなことを悟られないようにごまかしつつ、自分のカードを集めた。
彼は、遊戯さんは強い人だ。決闘はもちろんだがなにより心が強い。物腰が柔らかいためにそれにすぐに気付くひとはまずいない。

「君と久しぶりに会えてよかった。また背が伸びたんじゃない?」
「そ、そうですか?ついに遊戯さん抜かしちゃいましたか!?」
ふかふかの、座り心地よいソファから立ち上がった彼は小さく微笑み、そして顔が近くなったと思ったら思いきり俺の額にデコピンをしてきた。
「なーに言ってるの。僕を抜かすにはまだまだ足りないよ」
あまりの痛さに額を押さえた。それが面白いのか笑う彼。ちくしょう遊戯さん!ゲームにもこういうことにも全く手加減をしてくれない!
「さあて十代君、久しぶりに会ったんだから君が今までどこを旅したのか聞かせてよ」
ひとしきり笑ったあと彼は手を鳴らして話を変えた。そうだ、俺はいろんな国をまわって久しぶりに日本に帰ってきて、遊戯さんに会いに来たんだ。
「もちろんです!俺、いろんな国に行ってたくさんの強い決闘者と決闘したんですよ!」
「そうかい。それは聞くのが楽しみだよ」
立ったままの彼はおもむろに歩き出した。長話になると判断してきっと紅茶とか出しに行ったのだろう。彼が戻ってくるのを待ちきれず、無意識に彼がいるキッチンへと足を運んだ。

「あれ、来たの。待っててよかったのに」
「準備しながらでもいいんで話を聞いて下さい」
「そんなに聞かせたいのかい?いいよ、話してごらん」
困ったように笑って了承してくれた。実はそんなに聞かせたい話でもなんでもない。ただ彼の傍にいたかっただけでその口実だ。そう考えながら口はちゃんと旅のことを話す。我ながら器用なことをするなあ。
彼は相づちをうちながら茶葉をポットに入れて着々と準備をしている。お湯が注がれた瞬間いい香りが部屋を包んだ。
「…いい香りですね」
「本当?これ僕のお気に入りなんだ。それで、君はその後どうしたんだい?」
彼のお気に入り、かあ…後で銘柄を聞いて買ってみよう。話を続けながらそんなことを考えた。だって気になるし。好きなひとのことなんだから尚更だ。
話をしながらふと彼の横顔が目にはいった。自分より少し高い横顔。身長で言ったら俺は彼の鼻あたりの高さだ。いつか追いついて、彼を抜かす時はくるだろうか。…くるといいなあ…。
「十代君、準備出来たよ。リビングに戻ろうか」
いつの間にかポットもカップも乗せたトレイを持っていた彼はそう言って、さっさとその場を後にしてしまった。急いで後を追ってトレイ持ちますと必死に言った。

いつか追いつきたい。でもきっと追いつかない。矛盾した思いを胸に彼の傍にいる。でもいつか彼に、あなたに追いついたときには、そのときには―

背後から奇襲アタック

してやりますからね。


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