どういう風に君は笑うの
「遊戯さん、デュエルしましょう!!」
デュエルディスクを叩きつけて、俺はこの世で一番尊敬している人に決闘を申し込んだ。
一方その人は、それに肩を竦めて――一瞬確かに動じる様子を見せたけど、それきりだった――笑顔でそれを手に取った。
「いいよ、やろうか」
「絶対負けませんからね!!」
言い切った俺に遊戯さんは柔らかく微笑んでカードを切り始める。
それを横目に見ながら気付かないように小さく息を吐いた俺は、自分も手元のカードを切るふりをして、じっと彼を見つめた。
伏せられた瞼はいつもの何倍も遊戯さんを大人びて見せる。
勿論、言動も浮かぶ笑みも、ずっと俺より大人で。
年上なんだからそれは当たり前なんだけど、それは凄く、複雑で。
確かに、遊戯さんは憧れの人で、尊敬、していて…大切に思う。
アカデミアに通い始めた頃の俺なら、それだけで、彼を追いかけるだけで終わっていたのかも知れない。
だけど今は、もう、それだけじゃ足りないんだ。
追いかけたいんじゃなくて、隣にいたい。
決闘だけじゃなくって、もっと、深い所で繋がっていたい―――気付いた俺にとってもっと近付きたいのに、遠く感じてしまう、その笑顔が好きだけど、嫌いだっだ。
「―――十代君?」
「え、あ、はい!?」
そうやって考えていると、一言も発しなくなった俺を気遣って、心配そうな声が聞こえる。
「どうかしたの?」
「いや、大丈夫です…!」
人の心に敏感なこの人は、僅かな表情の違いでも気にしてしまうから。
気を遣わせてしまった事に少し落ち込んだが、とりあえずデュエルディスクにカードをセットする。
こうやって何度も決闘をしているけど実際俺の勝算は、あまり高くはない。
だけどいつか、自分で言ってたように。決闘でしか計れないものもあると思うから。
近付く為には決闘で知るしかないんだって思う。
直接、口に出せない―――そんな自分の臆病さに笑うしかないけど。
―――む、に。
そんな中、いきなり遊戯さんの顔がどアップになったかと思うと、無理矢理上を向かせられて両頬をつままれた。言葉ひとつなく、上に下に動かされる動作は、痛くはないが非常に居たたまれない。
「……はに、やっへんへすか……?」
「……ぶ、あはは…!」
思わず聞いた俺に返ってきたのは、それは楽しそうな笑い声だった。
子供みたいなそれに呆けてしまった俺に、調子づいて相手はますます動きを激しくする。力は入ってないにしろ流石に痛みを感じて、でもその楽しそうな笑みに手を振り払う事も出来なくて、暫く俺はそのまま弄ばれていた。
その、笑顔は、卒業デュエルの時の、まだ高校生だったこの人ようで。
ただ無邪気に、潜む憂いもなくて。本当に見たかったのは、この笑顔だったんだって…気付いた。
そうして為すがままにされて、ようやく解放されたのはヒリヒリと頬が痛む頃だった。
「ごめんね…なんだか十代君、凄く緊張してたみたいだから」
すまなそうに頬を撫でながら、その至近距離に思わず息が詰まる。
緊張していた訳でもないけど、気にかけてもらえた事に胸がじんじんと疼いて、今度こそ、俺はその手をとるとお返しに此方からも両頬を緩く引っ張ってみる。
「……」
「……、ぷ、」
吹き出した俺に、不満げに眉を寄せたそれは、本当に子供みたいで。
―――ああ、好きだなって思ったんだ。
「お返しですよ」
「ちょっ、なにして…っ、あははは…!」
「秘技、擽り攻撃!」
もっともっと、俺の知らない貴方の顔を見たくて、知りたくて、触れたくて。
まるで飽きる事ないこの気持ちを、貴方は受け止めてくれるだろうか。