※学パロ

今宵月に逃亡しましょう


「ゆ、遊戯さんがかぐや姫役に?」
「はは……、うん」

ぐらり。
熱に痛め付けられた脳が揺れた気がした。

 今、オレ達の高校では約二ヶ月後に控える文化祭に向けて準備が進められている。かく言うオレや先輩である遊戯さんのクラスでも、それぞれ出し物を検討していた。
それが今日、正式に決まったらしい。オレ──遊城十代が風邪で休んでいる間に。

「……て言うか何でかぐや姫なんですか! ベタな!」
「そのベタさを目指そうって事になったんだよ、城之内君の一言から」

遊戯さん達のクラスの出し物は演劇・かぐや姫。決定した理由も極めて単純なノリだったらしい。しかしオレはそうも言ってられない。此方の理由も極めて単純。

「心配すぎる……」

そう、結末から言えば女役を演じる事になった性格見た目オーラその他諸々全てが超絶可愛い遊戯さんが心配なんだ。うわあああ……あんな男の巣窟で姫だなんて……

「やるからには頑張るよ!」

あああああ駄目だ、この人分かってない。現に人の気も知らずに満面の笑みでガッツポーズを決めてる所とか。

「はあ……、頑張ってください」
「うん!」

序でにオレの想いに気付いていない所とか。いやでも、気付いてたら多分こうして家までお見舞いに来てくれたりなんてしないんだろうな。うん。
脱力感にうなだれて掛け布団に突っ伏しそうになる。

なんとか、なんとかして周りの連中からこの人を守らなければ……!



――翌日、復帰したオレは文化祭実行委員会委員長である万丈目に頼み込んで(最終的にはデュエルで勝って力ずくで認めさせたんだけど)、無理矢理役員の係決めに出席させてもらった。

「それでは今から抽選ドローで係を決める! 文句は聞かんぞ!」
「おおー!」

白け切った抽選会場内で一人ではしゃぐ。

「アニキぃ……なんでそんなにハイテンションなんスか」
「フッフッ……愛だぜ、愛の力!」

隣に居る本来の実行委員である翔も置いてオレは人一倍力んでいた。

 自分で言うのも何だが、昔からくじ運はある。掃除当番も席替えも、狙っていたものが手にはいる。勝負の時だって、ここぞって時に奇跡的なドローを引いたことが何度もある。
だから、わざわざ今劇で活躍する遊戯さんの護衛と応援と護衛(大事な事なので二回言いました)が出来る舞台袖での案内係を狙い、オレは此処に来たんだ!劇の途中、出番待ちの疲れた遊戯さんが偶々傍にいたオレにこてんと甘えたりなんかしてくれたらもう……へへっ、最高。あ、"十代くん着替え手伝って?"とか言われたらどうしよ!ああもう可愛すぎるぜ!衣装の下に着る薄いTシャツ一枚とかでもじもじしながらだったら尚良い、寧ろ服なんて着ないでオレと裸で抱き合……

「2年遊城十代! 何をしている早く引け!」
「何だよもー…遊戯さんが可愛い所だったのに」

頭の中で遊戯さんを愛でながら、促された通りもさもさと紙の山から一枚を引く。

「ドロー!」

紙を差し出された万丈目の手のひらに置いた。
……さあ、来い!

「えー…、遊城十代は」
「……オレは?」

ごくり、と生唾を飲むとその生々しい音が脳内に響いた。

「お前は、…紙吹雪き係!」
「……へ?」
「へ、ではない、紙吹雪き係だと言っている!ほら退け、次の奴が引けんだろう!」

頭の中で全てが崩れた。
ああ、遊戯さんが!遊戯さんが!遊戯さんが紙吹雪きと共に遠ざかって行く……紙吹雪き係で何が出来ると言うんだ!

「ゆ……遊戯さあああん!」
「ええい! 喧しい!」

万丈目に引きずられ立っていた場所から無理矢理引き離された。少しばかり転びそうになったが、そんなことは問題ではない。
オレには遊戯さんに近付けない係なんてただの雑用だとしか思えなかった。



 * * *



 そんなこんなでとうとう文化祭当日がやってきてしまった。

オレのクラスでは、これまた現代では定番と化してきた使用人喫茶をやるらしく、朝から明日香が物凄い形相で執事衣装を渡してきた。折角メイド服着てるんだからお淑やかにしてみろっつーの!

「はあ……」

沈んだ気分のまま燕尾服に袖を通す。あ、オレ案外似合うじゃん。

「アーニキぃ、ここ最近沈みすぎっスよ」
「そうだドン! 武藤先輩が遊びに来てくれるかもしれないドン! 元気だすドン!」
「そうは言ってもよお…」
「んもー、今日は文化祭本番っスよ! 元気だしてアニキ!」

そんなこと言っても沈むものは沈むんだよ!遊戯さんはもうオレの生き甲斐と言っても言い。

「うう、遊戯さん……」
「ああもう! ほらアニキ、係の仕事行くっスよ!」
「仕方ねえか……」
「行ってらっしゃいドン」

ひらひらと剣山に手を振られて教室を後にした。正直翔に手を引かれて居なければ立ち止まって上の空になりそうだ。


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