触れた数しか数えられない


夢を見たんだ。それは儚いものだった。目を閉じて見るそれは無意識の願望だと言う。現実で見るものと同じだと言う。
ぼんやりと覚醒して仰ぐ天井。酷い虚脱感だった。そこに望みなど無いような気がした。
「‥‥。」
何度きつく目を閉じても、彼はそこに現れない。それが何故か、どこかで理解してしまっている。
「‥ゆう、ぎ」
じわりと目頭が熱い。時が経つのは早い。彼はもう、自分のことを忘れただろうか。
何故だろう。あの日時を越えてから、片時も想わないことが無かった。伝説の人だった。これまでもこれからも、忘れるなんて有り得ない。
彼は夢に現れない。
それだけのことだった。取るに足りないことだと思った。親兄弟ですら簡単に捨てられる日常だ。離れ離れの誰かを_それも既に記憶すら曖昧な_留めておこうなんて無理な話だ。


彼はもう俺を忘れてしまっただろうか?


無意識なんだ。夜が来て陽が昇って、また目が覚めるその直前。会えない日々を数えようとしてしまう。もう何度繰り返したか解らない。
「遊星、くん」
控えめに呼ばれたその声が頭から離れない。霞んだ記憶の奥底で疼くように、それはじわりじわりと体を蝕む毒だった。彼はもういないのだ。もうここに、彼はいない。ただその一辺倒が、目覚めてからずっと纏わり付いて離れない。原因はただ一つきりだった。
彼は、さよならと言わなかった。
言わなかったんだ。それが何かを増長させた。ちゃんと解っていた。それなのにまだ焦げ付いたような感情が浮くばかりだ。
彼はもう忘れただろうか?もう何か他に大事なものを見つけただろうか?自分はもう過去の遺物になったのだろうか?
大きな矛盾だ。過去である筈の彼はもう、自分にとって並行する現実になっていて。そしてそこへ辿り着くには、たった一つの方法しかない。それは安易な考えだ。思う程単純でないと知っていた。それなら何故、遡ることが出来たんだ。
叶わないから苦しいんじゃない。物事はいつだってそうだった。可能性があればこそ、断ち切れないんだ。自分にとって大切なのは今ここにあるものだと痛い程解っているのに。
縛られて、いるように思えてならない。
(頼むから、)
忘却の反面で望む。願うその向こう側で拒むのに。
ああまたいつか触れたいと、想うばかりだ。
どうか。
















(頼むから、





   忘れないで)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -