たくさんの人が行き交う池袋。
そこにあるカフェで、僕は彼女と待ち合わせをした。彼女と会うのは、高校の卒業式以来だった。
「新羅!」
「……!」
名前、僕がそう呼べば、彼女は照れ臭そうにニコリと笑った。あの頃から比べると大人びた顔つきにナチュラルな化粧。短かった髪はミディアムに変わり、漆黒は落ち着きのある茶色に変わっていた。
「久しぶり!元気だった?」
「うん。名前も、元気そうだね」
「まぁねー」
僕が座る席の向かい側に、彼女は荷物を置いて席に座った。
「何にする?」
「んー、カフェモカで」
そばにいた店員に声をかけ、彼女のカフェモカと自分のコーヒーを頼んだ。
「突然どうしたの。てか、東京返ってきてたんだ?」
「うん、今年の春から、こっちの病院で働いてるの」
「え、春から?」
「うん。ずっとバタバタしてて連絡が今になっちゃって…」
カフェモカとコーヒーお待たせしましたーと店員がカップをテーブルに置く。彼女はそのカップに口を付け、カタリと置いた。
その瞬間、
窓ガラスの向こう側、視界の端に、赤いポストのようなものが通りすぎたような気がした。
「……ん?」
「……ん?」
声が重なって、2人で顔を見合わせる。どうやらお互いに感じたことは気のせいではなかったようだ。
20120329