僕が彼女に出会ったのは、高校に入学した時だった。
彼女は静雄の、中学からの同級生だった。女子の中で唯一静雄を怖がらないという部分に関しては奇特な人間だった。
短く切り揃えられた漆黒の髪が、太陽の下で艶々と輝いていたのが印象的で。女子にしては高い背、体育の時間は生き生きとし、数学の時間は憂鬱そうな表情。
決して完璧な人間では無かったが、彼が彼女を気に入るのに時間はかからなかった。
静雄や臨也と、対等に付き合える女。そして、彼女が間に入れば、誰も止められなかったはずの喧嘩は、止まった。
彼女は知っているのだろうか。唯一、平和島静雄と折原臨也を脇に従えることのできる彼女を、「女王」と呼ぶ人間がたくさんいたことを―――――
「え、東京を離れるのかい?」
「うん。行きたい大学があるの」
「そうなんだ…」
「私ね、看護師になりたいの」
「初めて聞いたよ、そんな事」
「初めて言ったもん」
「でも、なんで看護師?」
「……だって、看護師になれば」
―――2人に何かあった時、役に立てるかもしれないでしょ?
「……2人には、言ったの?」
「ううん。……言うつもりもない」
「なんで…」
「お願い、新羅。2人には、言わないで」
あれから4年。
相変わらず2人は犬猿の仲だ。
彼女は、どうしているだろうか。
「はい、もしもし?」
『新羅?久しぶり!』
「……!名前…?」
少しだけ昔の学生時代。
彼女は、間違いなく僕たちの、女王だった。