「おう名前!呑んでるか?」
「呑んでるよー。ほどほどに。」
うちの海賊団は毎回新しい町に上陸すると、祝いと称して町の一番大きな酒家で盛大に宴会を開く。普段でも宴会だらけで、しかもお酒にあまり強くない私は、いつもちびちびと一人隅っこでお酒を呑んでいた。
「……。」
苛々、する。
じとっと視線を向けた先には、船長。酒場のセクシーな踊り子たちと賑やかにお酒を呑んでいる。
ベン達もそんな私の心中を察したのか、心配そうな視線で何度も私を見てくる。その態度も、苛々する。
「――……先に宿に戻るわ。」
「おっ、おい!名前…!」
クルー達が止めようとする中、コン、と持っていたグラスをテーブルに置いて私は酒場を出た。
私だけの部屋。あの喧騒とは真逆の静かな場所。綺麗に整えられたふかふかのベッドに背中から倒れ込んだ。スプリングが軋んで、止まった。
本当、子供みたいで嫌になる。
「……、」
嫉妬?違う、そんなんじゃない。違う。嫉妬なんて。独占欲なんて。
そう思っても、胸のざわめきがおさまらなくて。
「……嫌い、」
こんな、自分が。
誰もいない部屋に私の声が響く。「―――…誰が、?」
「!」
私しかいないはずの部屋に、私以外の声が響いた。よく知った、声が。
「…酒場にいねェと思ったら…」
「……勝手に入らないで」
視界の端に映った赤に、なんだかバツが悪くて背を向けた。ほっといてくれればいいのに、中途半端に構わないでよ。余計、嫌になる。
「名前、」
「……一人にして。」
「…………ハァ…」
ため息が聞こえて、ギシ、と床が音をたてた。気配で分かる。彼が近づく音。薄暗い部屋で、その音だけ。
「こっちを見ろ」
「…っ!」
耳元に口付けられて、身体がびくりと震えた。思わず振り返ると、その瞬間を待ちわびたように右手で手をベッドに縫い付けられた。
「シャンクス!離して…」
「何が不満なんだ。」
「や、…私、今、おかしい、」
目をぎゅっと瞑って、顔を背けて、彼の肩を押しても何も変わらない。
本当におかしい。誰か、正気に戻して。
「あァ、お前はおかしいな。だが――」
「っ!…ゃ、」
ぐい、と顎を捕まれて、乱暴に口付けられた。舌が絡んで、唾液を共有。酒臭い。
「俺も、今はおかしい。」
「シャンクス…、」
「もっと、…お前は俺を独占しろ」
頬に暖かい感触。ああこれは、シャンクスの手だ。その心地よさに目を開けた。
視界に映る、愛しい人。
「うん…」
「俺は、お前だけだ」
切なげな表情を隠すように、再び唇を重ねた。ああもう、離れない。