隙をつかれた。まあ、当たり前と言えば当たり前だ。
「…いっ…!」
「名字中佐!?誰か、名字中佐を!」
腕から流れる紅は、あたしが後先考えずただがむしゃらに敵を切ったからだ。狂ったように、ただ、がむしゃらに。
「大丈夫ですか?」
「…うん、大丈夫。行っていいよ。」
海賊の討伐も一段落した時。
船内にあった布を適当に取って、適当に巻く。じわりと滲む血に眉を寄せた。
馬鹿みたいだ。中佐というそれなりの地位にいながら、こんな簡単な任務で怪我をするなんて。
「…はあ……」
誰もいなくなった部屋でため息をついた。もうすぐ港に着くだろう。そう思って、テーブルにもたれた。
(あー…眠い、かも)
今回の討伐の計画のせいでここ最近よく眠れなかった。その分の眠気が今来たみたいだ。あたしは欠伸をひとつして、机に突っ伏した。
(……ちょっとだけ、)
「―…おい!起きろ!」
「いっ、!?」
ごつん!と頭に衝撃が走る。やばい、あたしの貴重な細胞が…!って頭をさすりながら、頭をあげた。
「いったい!」
「寝てんじゃねェ、馬鹿が。」
「うわ!煙い!」
もわっと目の前に煙が広がる。開いてたイスにどかっと座るのは、あたしの同期で上司の。
「スモーカー!あんたに馬鹿って言われたくないんですけど!」
「うるせェ。でかい声出すな。」
悠長に葉巻を吸うスモーカーにだんだんとイライラする自分。いつも自分勝手なこいつの方が階級が上ってのが納得出来ない。しかも最近、准将になったとか。あたしは、また、置いてかれる。
「なによー…こっちは傷心だってのに。」
「――またか。」
軽く握られた腕、スモーカーの視線の先には血の滲んだ汚い布。
抵抗する間もなく、しゅる、とそれを解かれる。
「ちょっ、と…」
「じっとしてろ。」
なにをするのかと身を引こうとしたけれどそれが出来る訳もなく、スモーカーは傷口に軽く口付けた。そのよく分からない感触に、眉がピクリとした。
「スモーカー…!」
「気ィ付けろ、その内死ぬぞ。」
「…あんたが、一人で昇格するから。」
同期、なのにもう二階級も離れてしまった。
「やっぱ、能力者は強いなー。」
「お前、カナヅチになるのが嫌だっつったんだろ。」
「そう、だけど…」
スモーカーはそばにあった新しい真っ白な包帯を取って、あたしの腕に巻きつけた。
「置いてかないでよ…」
一番言いたかったことを口に出した瞬間、視界が潤む。焦っていた。ずっと、昇格出来ない自分に、焦っていたのだ。
「可愛い事言うじゃねェか。」
包帯を巻き終え、ニヤリと笑うスモーカーはあたしの頬を触った。
「お前も、自分一人の体じゃねェってこと分かれよ。」
毎回怪我されたら気が気じゃねェと溜め息をつきながらスモーカーは言う。
「……うん、」
頬に触れた手が優しくて、泣きそうになるのをこらえた。