「ん…、」
カーテンから差し込む光が眩しくて目が覚めた。朝、か。いつの間にか眠っていたらしい。上半身を起こすと、何も纏っていない肩が寒かった。胸から下を隠している布団に鼻を近付けると、たばこの匂いがして眉を寄せた。いつになっても慣れないこの匂い、嫌いだけど。
「…だるい。」
ボフン、一度起こした上体をまた後ろに。ベッドのスプリングが少し音を立てた。だるい、けだるい。あの後の朝はいつもこうだ。目覚めると横に温もりがないのもいつもだ。部屋の向こうの方でシャワーの音がするのも、いつも。
「はー…、」
白い天井を見つめながら息を吐いた。
起きたい、けど起きる気になれない。この際二度寝してやろうか。でも布団に染み付いた匂いを一度意識してしまったら気にせずにはいられなくなる。
「名前、風邪引くぞ。」
「わっ、」
バサッと顔に降ってきたジャケットを剥ぎ取って起き上がった。そのジャケットを投げてきた男を睨みつけるけど、本人は上着を着ないまま窓の外を見つめながら葉巻をくわえている。
「投げないでよ馬鹿。」
またジャケットが宙を舞う。それは彼の腕に当たると虚しく床に落ちていった。その一瞬を見て、なぜか、寂しい、なんて思った。
「もー、だるい、誰かさんのせいで。」
「あ?よく言うぜ、気持ち良さそうにしてたぜ?」
「…そんなことなーい。」
「バレバレなんだよ馬鹿。構って欲しかったんだろ。」
「―――………、」
ベッドに腰掛けて白い煙を吐く彼は、スモーカーは、昔から、あたしの心を読み取るのがうまい。横目でちらりとあたしを見るその目はあたしのすべてを見ているようで、思わずうつむいてしまった。
「…………」
「…」
ふたりきりの時間は久しぶりで、会えない間に心は寂しさに溺れた。身体は渇いてしまった。潤して、もっと。助けて、
「……………もっと、」
「あ、?」
心にぽっかりと開いてしまった穴は、こんなものじゃ治らない。溺れたあたしは、貴方に助けてもらわなきゃ、生きられない。
(…苦し、…)
かすれてしまって、うまく声が出ない。こんなこと、口に出すのは初めてだった。頭がいかれたのかもしれない。さみしい、って思うなんて、もっと、なんて。
「…もっと、ちょうだい…っ」
「っ、」
恥ずかしくて、俯いた瞬間、手首を掴まれて、あたしの黒い髪が、真っ白なシーツの上に散らばった。