私は抱きしめられていた。筋肉のついた逞しい腕が私の背中に回っている。なんでこうなっているのかはよく分からないけれど、1つだけはっきりと分かるのは、この偉大なる航路で幼馴染と再会した、ということ。

「……」
「……」

もうどれくらいこうしているかも分からない。どちらかが口を開くわけでもなく、私がこの腕を振りほどく分けでもない。ただずっとこうしている。
この腕を振りほどくことは決して難しくはない。彼は私もきつく抱きしめているわけでもない。でも、できなかった。好き、だったから。いや今も…好き、だから。


私は控えめに彼を呼んだ。この名前を口に出すのは久しぶりで、とても、緊張した。そして、私を抱く腕の力が強くなった。
彼の左耳にある三連のピアスが私の顔の横でゆらゆらと揺れる。ああ、知らない。

「名前…」

低く、吐息混じりに呟かれた声が、私の耳にダイレクトに届いてドキッとする。
あれも、これも、知らない。
昔は私の方が背が高かった。
私の知っているゾロは、二刀流だった。
私の知っているゾロは、こんなに、強くなかった。
そうだ、くいなが死んでから、私たちは会っていなくて、

「ゾロ…離して…」
「……」
「……っ」

返事が無いかわりに、息ができなくなるくらい強く抱きしめられた。
泣きそうになるくらい、切なく。

「私、行かなきゃ…」
「行くな…!」

離れようとしても、その厚い胸板を押しても、びくともしない。
やめて。やめて。欲しくなる。

「…ゾロは好き。でも…!」

まるでその先の言葉を恐れるかのように、唇がふさがれる。言葉にせずとも、ゾロの想いが痛いほど伝わる。
もう、どうしようもなく恋しく愛おしく、止められない。
腕を回す。息が苦しくなる。もう、それでいい。
このまま、死んでしまえばいい。
汲み取るように伝わる気持ちが、これほど苦しいのなら。



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