夜中、ふと目を覚ます。部屋はナミとロビンの寝息しか聞こえない、深夜2時。
私は起きたついでにトイレに行こうとベッドから抜け出した。
「……あれ」
排泄を終え、なんとなくキッチンへ向かうと、まだそこには明かりが灯っていた。
「――サンジ、」
遠慮がちに扉を開けると、そこにはタブリエを付けたままのサンジがイスに座ったまま、うまくバランスを保ち眠っていた。
朝食の仕込みをしていたのだろうか、香ばしい良い匂いがする。
「……」
私はサンジが目を覚まさぬように、そっと歩み寄って、彼の隣に腰かけた。
彼の呼吸に合わせて揺れる金髪が部屋の明かりによってキラキラと輝く。薄い唇は少し開いていて、私は何故だか、キスをしたくなった。
―――起きない、よね
根拠の無い憶測を打ち立て、私は彼の唇へ自分のそれを寄せた。乾いた唇に私の唇が触れる。触れるだけでそれ以上は踏み込まずに、唇を離した。
その瞬間、
「……っひゃ、!?」
「――ヤり逃げは、ルール違反だろ?」
手首を捕まれて、引き寄せられた。
ニィ、としてやったりな顔が視界に入り、嵌められたと分かった。逃げようと腕に力を入れてみても、びくともしない。
そんなことをしている間にサンジは私の顎を捉えて、躊躇い無く口付けた。
私がしたのとは違うくらい深く、荒っぽいそのキスは私の息が続く限り行われる。唾液も、息も共有して、サンジがいつも吸っている煙草の香りがする。
私は、この状況に内心幸せを感じてしまっていた。サンジの料理の匂いに包まれながら、サンジの煙草の香りのキス。外も中も、サンジでいっぱいだ。
「…っ、サンジ」
「なに、もっと欲しそうな顔してる」
意地悪な言葉を発するサンジだって、その目は完全に欲情していた。
「だって、煽られたから、」
「…朝、立てなくなっても知らねェぞ」
この様子じゃあ手加減はしてくれなさそうだ。でも、少しでもこの匂いに香りに包まれることができるのであれば、そんなことどうでも良かった。
楽園の定義
(貴方と貴方の匂いに抱かれる)
2011.08.09 「夢の痕」様サイト内企画『香楼夢』へ提出