幼い頃、私は海賊になりたかった。海賊に憧れ、海に焦がれ、赤に恋をした。
これは、何かのさだめか。昔恋をした海賊が、私の管轄下にある街に上陸していたなんて。幼い頃海賊になりたかった私は、現在海軍の大佐と呼ばれる地位にいた。
砂煙が立ち込める。私の部下が打った大砲によるものだ。私の見据える先に、懐かしい影が見えた。
「――…赤髪のシャンクス、」
「久しぶりだな、名前…」
「……っ」
そんなに強くはないが並の人間であれば倒れてしまうほどの覇気を感じる。部下は、みんな倒れてしまった。私も、これ以上はつらい。
「こんな何もない街に、何の用?」
――お前を、連れては行けない。
シャンクスは最後までそう言って、私を海に連れていってはくれなかった。
あの時の声が、頭の中で繰り返される。彼はきっと、海に焦がれた私しか知らない。彼に恋をした私を知らない。悔しくて、哀しくて泣いた私を知らない。
「――…お前を、迎えに来た。」
ドクン、
心臓が大きく動いた。
「正気?私、海軍よ。」
「そんなことは知ってるさ。」
勝ち気な笑みに、動揺した。内からも外からも、気持ちが揺れているのは目に見えていた。
「…シャンクスが、あの時私を連れて行ってくれなかったのに、」
「……お前が、幼すぎたからだ」
「あの時の私の気持ち、分からないでしょう!?」
これは、この地位は、私を連れて行ってくれなかった彼らへの、当てつけのようなもので。
「…悪かった」
「…っ、」
一歩、一歩、シャンクスは私へ向かう。私は金縛りにあったかのように、その場から動けなかった。
「……来ないで…」
「名前、お前は知ってるだろう」
赤が近付く。嫌いで嫌いで嫌いで、大好きな赤が、私のパーソナルスペースに踏み込む。壁が、崩れる。
「シャンクス、」
「海賊は、頼むんじゃない」
――奪うんだ。
ああ、もう、
隻腕に抱き締められた私の心の壁は、瞬く間に消え去った。