今日も、私は嘘を吐く。
壁を築いて、身を守って、傷付ける。


「好きです」

彼は何回、私にそう言えば気が済むのだろうか。
壁と彼に身体を挟まれた状況で、私は冷静にそう思った。もうすっかり、慣れたものだ。

「私は嫌い。そこ、退いて」
「――……、」

彼は絶大な人気を誇るヒーロー。容姿だってかっこいいし、性格も表向きは文句なし。彼に心を奪われた女性なんかきっと数えきれないだろう。だからこそ―――

「聞いてる?」
「……嫌です」

そうやって傷付いたふりして、私を見る。私を罪悪感でいっぱいにしようとする。

「ちょっと、いい加減にして」
「僕の、どこがいけないんですか」
「…は…?」

私を見る真っ直ぐな目。

「僕がヒーローだからですか?性格ですか?容姿ですか?なにが、駄目なんですか?僕はどうすれば良いんですか」
「意味、分かんない…」

私を好きだという唇。

「もう、好きになってくれても良いじゃないですか…」
「……っ、」

全部好きで好きで好きだから、嫌いだった。
その辺の女の子と一緒にされたくなかった。その中に紛れたくなかった。自分がその中に埋もれてしまって、彼に忘れられそうで、怖かった。
だから、気持ちを隠した。

「…名前さん、」
「バー、ナビー、」

私は嘘を吐くことに、慣れてしまって、

「好きです、貴女が…貴女だけを――」
「……や、めて」

どうすればいい。
自分で作った壁は、自分ではどうにもできないほどに築かれてしまった。

「名前さん、?」
「…っもう分からないの!私、」

たった二文字が、言えない。声が出ない。
壊せない。この壁を、自分では壊せない。

「――……名前さん」
「…なに、」

言えないから、気付いて。
だれか、壊して、

「キス、していいですか?」
「は…!?」

貴方が、壊して、

「嫌だったら、殴ってください」
「な、」

殴れるわけ、ない。
近付く唇に、馬鹿みたいに身体が動かなくて、

「バ、バーナビ、…っ、」

触れたところから、想いが溢れた。壁が壊れる。いとも、簡単に。

「好きです、名前さん」

壊して、溢れて、掬われる。
私の嘘も、貴方の愛も。







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