―――貴女は強がり、ですね
初めて出会ったとき、そう言われた。初対面の人間にそう言われて嫌な気持ちにならない方がおかしいだろう。
それ以来、私は彼が苦手だった。
「〜〜っ!おっも、い…!」
今日、ジムに新しい筋トレマシーンが入る。少し前からそう聞いていたが、まさかそれに使うオモリを運ばされるとは思ってなかった。
オモリが入った段ボールを抱えるけど、ヒーロー達が使うせいか一際重くて汗が滲む。
私はただの受付のはずなのに…
イライラして投げ出したくなったとき、急に負担が無くなった。
「わ、!」
「無理しちゃ駄目ですよ」
声のする方へ視線を向けると、私の苦手な金髪の彼。私が苦戦していた荷物を軽々と持ち上げて、私を見た。
一体どこから沸いて出てきたんだ、と思わず眉を寄せたけど。
(あああ!)
私を置いて歩き出してしまった彼を引き留めるために急いで駆け出した。
「ちょ…!いいです、私が運びますから!」
「だから…先程も言いましたよね、無理するなと。腰や膝を痛めたらどうするんですか」
「大丈夫です!」
どうして私に構うんだ。確かに彼の言っていることは正しい。だけど、どうしたって彼に頼りたくはなかった。
「貴女は本当に強がりですね」
「…!」
また、言われた…!
「ほっといて下さい!」
「そうすぐにカッとならないで下さい」
「はあ!?」
彼の発言はいちいち私を刺激した。
はぁ、とわざとらしくため息をつく彼が私の目に映る。
なんなんだ一体。大体これは私の仕事なのに!
「僕が、これを運びたいんです。あんな危なげな場面を見ていたのにスルーして、もし貴女に何かあったらオジサンたちに何言われるか分かりませんからね。」
「な…!」
「しかも貴女はいつも頑張りすぎです。こういうときは素直にありがとうと言えばいいんですよ。分かりました?」
「はあ…?」
よくもまあこんなに次々と言葉が出てくるものだ。その頭の回転の良さには敬意を表したくなる。
「意味が分かりません。バーナビー・ブルックスJrさん!」
皮肉を込めてそう言い返すと、彼はわざとらしく息を吐いた。
「本当に貴女って人は…ああ言えばこう言う…」
「だからほっといてください!貴方には関係無いでしょう!?それともなんですか、私に気があるんですか!?」
この人が私に気があるなんてあるわけないと分かってはいるけど、思わず口に出してしまった。
でも彼は「そんな事あるわけない」と否定してくるだろう。そうしたらもう荷物は諦めて「じゃあ今後一切関わらないで下さい」と言えば―――
「ええ、ありますよ。僕は貴女が好きです」
「…………は?」
今、なんて?
「だから好きだと言っているでしょう。分かったら素直にこの荷物を僕に預けて、貴女は後ろからついてきてください」
(…何を言い返せば良いのか分からない…)
(やっと大人しくなりましたね…これだから鈍感は)
御題:空想アリア