「――へぇ、大胆ですね」

すぐそこで聞こえた慣れた声に、特別驚きもせず、私は振り返った。

「…バーナビー、」
「おはようございます」

私は彼を一瞥し、下着の上に白いシャツを羽織った。ショーツだけの下半身が寒い。早く何か着なければ。今日はスカートにしようか、パンツにしようか。
頭の中で考えながら私はクローゼットのある寝室へ向かった。当たり前のようについてくるバーナビーを横目に。

「何か用?」

カラカラとクローゼットの扉が音をたてる。ひしひしと伝わる、ある場所に突き刺さる視線と、

「いえ、ただ――」
「…っ、」
「傷は、痛みますか…?」

―――怒り。

右大腿部。いつの間にか私の背後に密着した彼の右手が、そこに巻かれている包帯を撫でた。
それは昨日、事件に巻き込まれた時に負ったもの。仕事場の近くで爆発が起き、割れたガラスが私の右大腿部に突き刺さった。出血はしたものね、重症という程では無かった為黙っていたのだが、どこかでその情報が彼の耳に入ったらしい。

「バーナビー、」
「僕、言いましたよね。何かあったら、すぐ知らせて下さいって」
「うん」
「貴女が事件に巻き込まれたと聞いたとき、心臓が止まるかと思いました」
「…ごめん……」
「無事で良かった…」

バーナビーの両腕が、私を抱いた。怒りから、不安と焦り、そして安心へと変わる。柔らかい金髪が頬を掠めた。

「バーナビー、くすぐったい」

そう言って少し身を捩っても、私を抱く腕の力は変わらずに。顔の横でバーナビーの髪が揺れて、首筋にキスをひとつ落とされた。

「名前さん、今日の予定は…?」

首筋に触れた唇は私の耳朶に移動。ダイレクトに伝わる息遣いと声に子宮が反応する。これはきっと、お誘いの合図。これは断れないなあと少しだけ笑って、

「貴方のご自由に?」
「――傷は、なるべく配慮します」

眼鏡の奥に、獣を見た。





御題:空想アリア




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