「……バーナビー、」
呼んだって、どうせ届かない。
ヒーローになって、顔も出して、人気者。彼は遠くの人になってしまった。
(……届かない)
有名になった彼を、私は昔から知っていると優越感に浸ったのは一瞬。その後耳に入る歓声と黄色い声に孤独を覚えた。
ボーッとテレビを見ていると、ワイドショーが取り上げる昨日のニュースの振り返り。画面の中の彼は、カメラ目線で微笑んでみせた。
さぁこれでまた何人、女の子が彼に惚れたでしょう。
ソファーの上で抱えていた足を下ろして、そばに置いていた缶チューハイを手に取り喉に流し込んだ。お酒が入ると忘れられる。余計な夢を見ることもなく、寝られる。
「…はぁ」
どうせ他人だ。
結局のところ、血縁以外の人間関係はこの一言で終わらせることができる。どんなに親しかったとしても。
なんだかふわふわしてきた。もう一口、そう思って缶を口元に運んだけど、それは私の手から離れていった。
「――…ストップ」
「……?」
背後から聞こえた声に顔を上げた。
視界に映るのは、金髪の彼。
「…バーナビー、」
「その顔…もう酔ってるでしょう」
彼は私を咎めながら、私のお酒を私から距離を離したところに置いた。
「なんでいるの」
「また鍵開けっ放しでしたよ。不用心にも程があります」
あぁ、また小言小言小言。聞き慣れすぎて耳を塞ぎたくなってしまう。さっき画面の中にいた彼はどこにもいない。
「…関係ないでしょ、他人なんだし」
「……え?」
「(…しまった)」
気付いた時にはもう遅く、酔いが手伝って口が滑ってしまった。言い過ぎた。
「ごめん、私、酔ってる…」
――だからもう帰って
私はそう言おうとした。そう言おうとしたのに、
「――…名前、」
「…っ!?バ、…っ、」
唇に、当たったのは、いつも私に小言を言うそれだった。
合わさる唇と同時に頬を撫でられる。唇は合わさっただけで、さらりと離れた。
「…僕は、貴女が好きです―――」
「…バーナビー、」
「昔から、何も変わっちゃいない…僕自身も、貴女への想いも…」
これは夢だろうか?
上手く回らない頭も熱い顔も、お酒のせいにしてしまいたかった。いつもの唇から紡がれる言葉は、今まで聞いたことがない甘い言葉で、どうすればいいのか分からない。
「バー、ナビー…」
「名前、」
また、金髪が近付く。肩を軽く押されて、私の身体は倒れ、彼の身体は前のめりになる。そしてキスされる直前で、私は鍛えられた胸板を軽く押した。それは制止の合図。理性が、最後の邪魔をした。
「――酔ってる女を抱くの?無防備なときに入り込んで、狡い男」
しかし、私の考えが見破られていたことに対しての些細な抵抗は、彼の目を少し見開かせただけで役目を終えた。
「えぇ、――…狡い人間ですよ、僕は」
――だから大人しく、酔った勢いで抱かれてください。
唇が触れる。2度目のキスは、甘く甘く、深かった。
御題:空想アリア