「ふ、っ……う」
どうしてこんなことになったんだろう。うまく働かない頭で考えても答えは出ない。
ぎゅっと閉じていた目を開ければ、近すぎてぼやける大好きな顔。でも、こんなことをする関係ではなかったはずだ。
虎徹さんが好き。それは紛れもない事実。好きで好きで好きで、どうにかして振り向いてもらえないかと毎日思案していたくらい。でも彼は、私を子供扱いして、全然振り向いてくれなかった、はず。
「ん、ぅ……」
「……っ、は」
彼は私の唇をひたすら堪能し、そしてゆっくりと離した。それでも私の手を壁に押しつける力は緩むことはない。
顔に熱が集まるのを感じながら、私はぎこちなく、虎徹さんを見上げた。虎徹さ んは、真っ直ぐに私を見つめる。お互いの唾液で光る唇が、艶かしい。
「な、んで…」
嬉しい。嬉しいはずなのに、困惑。ようやく発した言葉はひどく情けない声色で。
虎徹さんは、パッと視線を外した。
「…ずっと、我慢してたんだよ」
虎徹さんは俯いてるけど、その顔の赤さは隠せていない。きゅうう、と締め付けられる胸。好きを隠せない。
「虎徹さん…好きです」
何回もこの言葉を伝えてきた。でも返ってくるのはあしらいだけ。
今度こそ、今度こそ、
「こんなオッサンなのにか?」
「そんなの関係無く、好きなんです」
この想い、届いてよ。
自分の心臓の音が耳障りなほどに五月蝿い。虎徹さんは顔を上げて、また視線 が交わる。その顔はやっぱり赤くて、困惑してるけれど、それすらもいとおしい。
「っあー!クソ!」
なんでこんな若い子好きになっちまったんだよ!
って恥ずかしそうに、そして半ば開き直ったかのように。
そして、
「俺も、好きだ」
そう言って、再び、口づけを。
title:空想アリア