女には性欲が無い。あるいは、男性より少ない。きっと、そんな風に思う男性は世の中にたくさんいるんだろう。
…………そんなことは無い、と思う。
好きな人には触れて欲しいし、触れたいと思う。ただ、そう伝えるのに羞恥心が優先されてしまって、気持ちを隠してしまうのだ。
(……どうし、よう)
ソファーに座る私の横で、優雅に長い足を組み、雑誌を読む彼をチラ、と盗み見る。
スッと鼻筋の通った高い鼻、金色睫毛に縁取られた翡翠の瞳、白く透き通った肌。
世の中の女性の殆どを虜にしてしまうであろうほどの容姿を持ったバーナビー・ブルックス・Jr。
とくに何をしている訳でもないのに、雑誌のページを捲る長い指や、服から見える白い首筋に、私は欲情していた。
「どうかしました?」
私の視線に気付いたのだろう。バーナビーは雑誌を捲る動作を止めて、私を見た。
「え、…いや、なんでもない」
自分の率直な感情を誤魔化して、私はその場を取り繕うとした。「欲情した」なんて、口が裂けても言えない。
口ごもる私に、バーナビーは何かを感じたのだろうか。私の顔を覗き込んだ。
「本当に?」
「…っ、近いって、」
必然的に近付く距離。伸ばせば触れることのできる、唇。
顔に熱が集まるのを感じながら、私はバーナビーに目を合わせた。そして気付く。彼は知っている。私が、欲情しているのを。
「何を今更。……言いたいことがあるならどうぞ?」
意地悪く上がる口角。挑戦的な翡翠の瞳。いつもなら突っぱねているはずなのに、それができない。その薄い唇に、触れたい。
「バーナビー、」
「はい」
恐る恐る手を伸ばした。愛を紡ぐ唇。パク、と指先をくわえられて、チロ、と赤い舌を覗かせながら舐められた。と同時に私を見据える、欲を含んだ瞳に、思わず唇が動く。
「……キスして」
「…いくらでも」
仰せのままに。
ふ、と優しく笑ったバーナビーは私の顎先を捉えた。降る唇、触れて、啄んで。
深くなる口づけに、ただ酔いしれた。
title:空想アリア