「ン、ゃ、…!」
気持ち良さに口を開くと、待ってましたとでも言うように声が飛び出していく。そしてそれは四方八方に広がり、ぶつかって、そこにいる人間の聴覚に跳ね返る。
「声、凄く響きますね――名前?」
耳元で意地悪な声がする。顔は見えない。でもきっと、すごく意地悪で、色っぽい顔をしているのだ。
彼の長く綺麗な指が私の中で我が物顔で蠢く。もう片方の手も、暇が勿体無いとでもいうように私の胸の形を変えたり、ぷっくりと膨らんだ突起を捏ねたりと、常に刺激を与えてくる。
「ゃ、言わないで…っ」
湿気で濡れた壁に手をついて、私はただただその刺激に堪えていた。いつ腰が抜けてもおかしくない状態で、快楽に嵌まっていく。
「とても、甘くて、可愛いですよ」
「っ、ぁン…!ッ、」
「あ、締まった」
「ば、か…!」
彼が指を動かす度に、くち、と粘着性のある音がした。何度聞いてもその音は私の羞恥心を煽り、濡れた髪は頬にへばりついたまま、私はそれをどうすることも出来ずにいる。
「名前、」
「ん、…っなに、?」
少し無理があったが、首を後ろへ向けると、キスされた。
「…ん、ふ…っ」「は、…名前、」
必死にその口付けを受け入れていると、その間に指は引き抜かれ、身体を反転させられる。おかげでより深く唇が重なり、私たちはしばらくキスに溺れた。
彼の首に両腕を回して、彼は片手で私の後頭部を押さえて、息をすることすら許さないとでも言うように、舌を捩じ込んで、私はそれに一生懸命答える。キスだけで、感じる。彼だから、感じる。気持ち良くて、もっと、もっと。
「ん、、バー、ナビー、」
「はい?……ッ、!」
堪らなくなって、私は彼の首に回していた腕を下ろした。彼の均整の取れた上半身をなぞって、下半身へ。すっかり勃ち上がった彼のそれを、ゆるゆると撫でて、精一杯の誘惑を。
「もう、挿れて…」
「…っ貴女って人は…!」
どうやら、私の誘惑は彼から残りの理性を奪うほどに効果的だったようで。
片足を担がれて、バランスを取れなくなった自分の身体を、彼にしがみつくことで安定させた。身体は彼のものを受け入れることに歓喜する。ぬるぬると数回、私の濡れそぼったそこに彼の先端が擦られて、それだけでゾクゾクした。
「すご…、とろとろ、ですよ」
「あ…ん、ひゃ、ァッ!」
どうしようもなく腰が揺れて、はやく、はやく、と急かすと、彼は私の中に容赦なく侵入した。互いに濡れた身体は、汗なのか元々お湯だった水なのか分からない。
「……ッ、は、」
「――……、」
濡れた金色、欲に満ちた翡翠、皺の寄った眉間、私に愛を紡ぐ唇…
その瞬間に視界に入った彼の、バーナビーの表情がとても艶っぽくて、
「っ、あ、バ…ッナビー、」
「は…っ、…ッ」
肌と肌がぶつかりあう音だとか、上擦る声だとか、それらが反響するのなんか、もうどうでも良くなるくらい、融け合う。
「ぁ、あッ」
「名前…ッ、」
もっと、呼んで。
「ん、ゃ、も…ッ」
「…ッ名前、」
もっと、もっと、愛して。
「ゃ、だめ、バーナビー…ッ!」
「――愛して、る…!」
そして、一緒に、嵌まって。
震えた身体に欲が吐き出されたそのあとに降る甘い口付けに、彼の愛情をどうしようもなく感じて、私はこの時、世界一幸福だと思えた。
甘ったるい歪みに嵌まって
(癖になって、抜け出せないね)
2011.07.04 「夢の痕」様サイト内企画『入欲中』へ提出