ここは居酒屋なのかと言われれば、そうでないように思う。かといって、バーなのかと言われても、素直には頷けない。
居酒屋とバーの間くらいの飲食店のアルバイトとして私は働いていた。若夫婦が2人で経営しているこの店でアルバイトは私だけ。そのためか、とても可愛がってもらっている。
私はこの島のこの街にあるマンションの一室を借りながら研究所で航海学を学ぶ所謂学生だ。親は遠く離れた東の海。海賊がはびこるグランドラインの中でも珍しく平和なこの島で、私は暮らしている。将来はただ漠然と海軍や商船などの航海士になれればいいなあ、と考えているくらいだ。

今日も私は店で働いていた。もうすぐ23時。閉店の時間である。店長はもうすでに、妊婦でしばらくこの仕事を休んでいる奥さんの様子を伺いに家に帰って行った。
最後私が店を閉めるというのはよくあることだ。ここで働き出してもう2年は経つし、ラストオーダーの時間は過ぎている。やらなければならないことは少ない。

(――…もう閉めるか)

洗い終わったグラスの水滴を拭き取る作業ももう終わった。最後のひとつを棚に戻し、そう思ったとき、ドアにかかっているベルがカランと鳴った。

「……いらっしゃいませ…」
「――…もう終わりか?」

もう閉店だというのに迷惑な客だと心の中で悪態をつきつつ、どんな客だと振り返った。

「…、…はい、もう閉店なんですが…」

少しだけ、怯んだ。
顔に真一文字の傷跡。大きな身体。髪を綺麗後ろに固めている男。しかも悪人面で片手は鉤爪。

「長居はしねェ。酒を」
「………はい」

この男は「閉店」という言葉が聞こえなかったのだろうか。思わず顔をしかめてしまったが、男は気付く様子もなく、カウンターの椅子にドカリと座った。



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