隣のクラスの矢野くんは、 1



「……矢野くん」

「何でしょう、はなちゃん」

「馬鹿ですか」

「ひどい……!!」


顔を両手で覆った矢野くん。

でも、そんなのに騙されるわけにはいかない。


「馬鹿でしょ」

「はなちゃんってそんなに暴言吐く子だった覚えはないよ……!!」

「うん、普段はね。馬鹿でしょ、馬鹿じゃないの」

「二回も言われた……!!」


うう、と目に見えてしょんぼりする矢野くん。

わたしは今、そんな矢野くんの部屋にいたりする。


ことの発端は、矢野くんが学校を休んだから、心配でお見舞いに来た、ってだけだった。

何気に矢野くんの家に行くのは初めてだったから、かなり緊張してきた。

でも、お母さんは優しい人で、矢野くんに似てて。


……って、そんなことはどうでもよくて。


その休んだ理由に、呆れた。




「牛乳飲みすぎてお腹壊した、ってなに?」




漫画じゃないんだから、と付けたして肩に掛けていた鞄を下ろした。

緑色のプージャを着てベッドに寝ていた矢野くんは、むくりと上半身を起こして。


「だってね、大きくなりたかったから」


へへっと照れ臭そうに笑う。

いやいや、照れる理由がよく分かりません。


ため息を吐きながら、どこに座ろうか、なんて迷ってると。



「はなちゃんはなちゃん」

「ん?」



視線を上げれば、笑顔で手招きしてる矢野くん。

一瞬、戸惑ったけど、その笑顔に敵うはずがなく。


一歩一歩踏み締めるようにフローリングの上を進む。

矢野くんは、それに満足げに口角を上げる。



「なんで大きくなりたかったの?」

「えー、だって、はなちゃんに抜かれたら嫌だもーん」



差し出された右手。

吸い寄せられたように捕まるわたしの左腕。





「だもーん、って言われても……」






軋んだスプリング。


苦笑いしながら、三日ぶりに矢野くんへとダイブした。

ぎゅうっと細い腕に抱きしめられて、大きくなくてもそのままの矢野くんが好きなのにな、なんて呟いたら。




「へへっ、はなちゃん大好きーっ!!」




満面の笑みで、さらにぎゅうぎゅうされました。


心臓は崩壊寸前です。




―fin―
「ねえねえはなちゃん」
「んー?」
「ちゅーしていい?」
「……唐突すぎるよね」

そう言いながらも瞼を下ろしてしまう、なんて。
やっぱり敵いません。



 * 20110216

clapお礼には初登場です。
そしてやっぱり、矢野くん…!!←
ちゃっかりしてますよね、本当に。
なんか、えろちっくな雰囲気なのに、牛乳の飲み過ぎって。笑
自分でもこんな方向に走るとは思ってなかったので、出来上がってから戸惑いました。
本編ではひたすら切ない感じだったので、まあいいですよねー。←




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