崩壊アンビバレンス 3




「26点、20点、34点、……29点!!」



金曜日の放課後。

今日もひとけのない図書室で、あたしは誇らしげにカウンターにそれを並べ、どうだと言わんばかりに陸を見上げた。



「おー、すごいすごい」

「棒読みー!?」

「……うん、ごめんこっちゃん、これのどこを褒めてほしいわけ」

「いや褒めるとこ盛り沢山じゃん!!」

「見当たらない」

「はー?」


あるじゃん、いっぱい。

そう視線で訴えかけるも、陸は華麗に無視する。

こんにゃろう。


ちなみにあたしがさっきから広げているのはテストの解答用紙。


今日返却されたばかりのそれを、もう一度陸に見せる。




「ほら、陸、よく見て。今回全部20点以上あるの!!」




声高らかにそう言えば、ぺしっと叩かれた頭。


「ぎゃ」

「わー、こっちゃん相変わらず色気ねーなー」

「すみません色気って何ですかああああ!?」

「あー、そっかそっか、もともと持ち合わせてないわけだ」

「悪かったですね、色気なくて!!」

「つーか、なに」

「ん?」

「結局俺はどこ褒めろって言われてんの」

「だから全教科20点以上だったの!!」


あたしがなかば叫ぶようにそう言えば、大きく息を吐く陸。


少し開けた窓からは、ふわり、花粉を含んだ柔らかいのに冷たい風が入ってくる。


「学年末で、その点数?」

「はい」

「全部の教科で、20点以上?」

「はい」

「その童顔で、この二の腕?」

「はい……ってさりげなく触るのやめてもらっていいですか陸さん」

「で、進級は?」

「え、出来たよ普通に」

「ふーん」



聞くだけ聞いといて、陸は興味なさげにあたしのテストをひとしきり眺めた。




と。








「よく出来ました」








くしゃり、撫でられた髪。

乱されたツインテール。




紅潮していく頬は、どう頑張っても隠せませんでした。






―fin―
「一緒に進級できんの?」
「い、一緒に、まあ、……うん」
「こっちゃんかーわいー」
「ぎゃーっ!! だから、二の腕つまむなってば……!!」




 * 20110313

関東大震災のあと、これを読んで笑顔になって下さる方が少しでもいたらいいな、と思いながら書きました。
が、また二人がやりたい放題やってただけみたいになりました。←




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