八兆分の一の世界〜三色の虹〜
(復讐者の横やりが入らず、夜の炎の活用法を知ることがなかった世界)



「君が次期アルコバレーノ筆頭だ」
仮面の男が告げる。どういうことだ、と最後の戦いに集まっていた者たちは口々に訊ねた。
始祖だと名乗った男の口から告げられたのは、この星の始まりとアルコバレーノの本当の存在理由。この戦い全てが茶番だと知らされ、綱吉たちは愕然とした。
「そんな、姫!」
γの慌てた声に振り返ると、気を失ったように彼の腕へしな垂れかかるユニの姿がある。腹から血を流しながら、白蘭も彼女のもとへ駆け寄って目を見張っていた。
「まさか!」
そちらに気を取られていた綱吉は、背後にチェッカーフェイスが迫っていたことに気が付かなかった。自分より何倍も大きな死ぬ気の炎を持つ男に腕を取られ、綱吉は地面へ無理やり伏せられる。
「手前!」
「おっと」
パチン、と音が鳴った。綱吉の下へ駆け寄ろうとしていた獄寺たちの目前に、チェッカーフェイスと同じ姿形をした人間が立ちはだかった。
「幻覚か……!?」
「いや、分身だ」
「何でもありかよ!」
獄寺や山本たちは行く手を阻むチェッカーフェイスの分身へ武器を構えた。
「骸さま!」
先刻までの傷を負って膝をついていた雲雀と骸が、分身たちに取り押さえられる。クロームは急いで立ち上がって槍を構えたが、獄寺たちのように別の分身体に妨害された。
「沢田綱吉、雲雀恭弥、六道骸。この三人くらいか。君たちこそ、次なるアルコバレーノに相応しい」
「な、やめろ!」
綱吉は身を捩ってチェッカーフェイスの拘束から逃れようとするが、びくともしない。逆に男の腕を首へ回され、無理やり身体を起こされた。
「あとは晴と雨と嵐、そして雷か」
「ランボはまだ子どもだぞ!」
「ああ。炎の純度は評価に値するが、彼は幼すぎるな」
仮面ごしにチェッカーフェイスが目を止めたのは、ユニの身体を大切に抱き上げて睨むγだった。
「君も候補の足し程度にはなりそうだ」
「……それで姫を救えるってんなら幾らでもなってやる」
グッと首を圧迫されてチェッカーフェイスと密着していた綱吉は、彼の身体の僅かな強張りを感じ取った。
「……さっき、ユニは、お前と最後まで一緒にいた始祖の子孫だと、言っていたな……」
「唐突だな。そうだ、ユニはセピラの子孫だ」
「お前はその人のことが大切だった……だから彼女が愛したこの星を守ろうとしている……」
呼吸が常のようにできないため、とぎれとぎれの言葉になる。しかし、チェッカーフェイスは口元に湛えていた笑みを消し、綱吉の言葉に耳を傾けているようだった。
「……おま、えも、ユニが……セピラの子孫が命を落とすのを、望んでいない、筈だ」
「何を言っている沢田綱吉! そいつは現在進行形で姫の命を……!」
「でも、まだアルコバレーノはみんな死んでいない」
ユニのように気絶したり突然抜けた力に戸惑って座り込んだりしているが、命を完全に奪われた様子はない。
綱吉は自分の首を圧迫する腕に爪を立てた。
「先ほどの話では、おしゃぶりの力に身体が耐えられなくなったときに世代交代が行われる筈。だがまだリボーンたちの身体に限界は来ていない。この代理戦争は候補を選出するだけの筈だ」
「その通り」
チェッカーフェイスは綱吉の首に回した腕から僅かに力を抜いた。呼吸は楽になったが、相変わらず抜け出せそうな隙はない。それは雲雀や骸も同じようで、腕を背中に回された状態で地に押し付けられている。
「まだ時間はある。アルコバレーノの人柱が死ぬことなく、星のために炎を供給する方法がきっとある筈だ。それを見つけて……」
「私は君より何億と年を生きている。その私が他に方法はないと言っているのに、新しい方法が見つかると?」
「見つけてみせる!」
「……よろしい」
パッと綱吉の身体が解放される。予想外のことに綱吉は思わず二の足を踏んで膝をついた。
「油断すんな、ツナ!」
「!」
リボーンの焦ったような声。ハッとするも遅く、綱吉の頭上にチェッカーフェイスの手が掲げられていた。
「ツナ!」
「十代目!」
太陽とも死ぬ気の炎とも違う光が、綱吉の目を焼いた。
「う、ぐ、ぁああああ!!」
チェッカーフェイスの手が、綱吉の胸に埋まる。鮮血の代わりに当たりに飛び散ったのは、大空属性の炎だ。
数秒、しかし数分と体感する時間の後、チェッカーフェイスの手は綱吉の胸元から離れ、支えを失った綱吉の身体はパタリと地面に倒れた。
「ぐ!」「くぅ!」
「骸さま!」「恭弥!」
分身体に拘束されていた骸と雲雀も背中から心臓を掴むように手を埋め込まれ、違和感と苦痛に声を漏らす。何かを終え、二人から手を引き抜くと、分身体は全て姿を消した。阻む者のなくなったクロームは、慌てて骸へ駆け寄った。
「骸さま……っ!」
彼の身体を抱き起こしたクロームは息を飲む。首筋に、おしゃぶりのような文様が焼き付けられていたのだ。雲雀に貸そうとした手を払われたディーノも、彼の鎖骨あたりに同じような文様を見つけた。
獄寺と山本も綱吉の方へ駆け寄り、苦痛に顔を歪める彼を抱き起こした。
「これは……!」
そして同じおしゃぶりの焼き印を、彼の喉元に見つけた。
「世代交代にはまだ時間がある。他の候補者も選定しなければならないからな。それまでにその新しい方法を見つけられれば、君の話にのろう」
帽子の位置を正しながら、チェッカーフェイスは立ち上がる。
「しかし何もないまま自由にしては、こちらも心もとない。故に、軽い呪いをつけさせてもらった」
「な! アルコバレーノの呪いは、人柱になるときに受けるものの筈だ!」
「その通りだ。これはそれとは違う、約束の証だ」
「何が約束だ……! 悪趣味なもんつけやがって……!」
ギリリ、と獄寺は歯を噛みしめる。すぐに立ち上がって目前の男へダイナマイトを叩きこんでやりたいが、大切なボスから今手を離すことはできない。
「そうだな、一年だ。それ以上は本当に現アルコバレーノの身体がもたない。それまでに君はその方法を見つけることができるかな?」
荒い息を吐き、綱吉は獄寺の腕を借りて身体を起こす。雲雀も忌々し気に顔を歪めて立ち上がり、肩に爪を立てた。
「……見つける、必ず――リボーンたちを、死なせるもんか」
様々な感情、睨みの視線を受けながら、チェッカーフェイスは口元へ薄く笑みを浮かべた。
「では楽しみにしているよ、沢田綱吉くん」
その言葉を残して、男は姿を消した。
「ツナ……」
自身の腹の傷を心配する友人の声に耳も貸さず、気を失った少女を見つめたままの青年は、グッと拳を握った。
「……うん、絶対に見つけよう、綱吉クン。パラレルワールドの記憶を遡っても、見つけてみせる」
「白蘭さん……」
嘗ての未来とは違った意味で見た者をゾクリとさせる瞳。腹の傷を治療しようと炎を灯していた正一は、ツンと熱くなる目元に皺を寄せて手を握りしめた。

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