ロン禁×REBORN(1)
都内某所の公園。ガヤガヤと賑わいのあるその場所に警視庁捜査一課の一色都々丸は呼び出されていた。
「いきなり連絡してきたかと思えば……」
因みに、彼は今日非番のためティーシャツに上着を羽織ったラフな格好。都々丸は自分を呼び出した男が目の前で悠々とチューブの黒蜜(男の大好物だ)を吸っている姿を見て、思わずため息と肩を落とした。
「やあ、トト」
鴨乃橋ロンは公園のベンチに寝そべり、黒蜜チューブを持つ手を振った。
「公共の場所で寛ぐな!」
「君が中々来ないから」
言い訳しつつも、ロンは素直に身体を起こす。
「で、今日のお前のお目当てはこの公園のイベントか?」
「そう。世界各地の黒蜜博覧会」
「お前企画なの?!」
そんなコアなイベント、目の前の男以外企画すると思えない。都々丸のツッコミに、ロンは首を振って否定する。鼻歌を歌うように軽やかな足取りのロンを見て、都々丸は本日二度目のため息を吐いた。
「気楽で良いよな、お前は」
「今日のトトは何を悩んでいるんだい? 事件ではなさそうなので興味はないが」
「秒で切り捨てるな!」
都々丸の声をサラリと流し、ロンは目についた屋台に飛びついた。購入したのは、黒蜜ジュース。ただのドロドロとした黒い液体にしか見えないそれを、まるで喉ごしスッキリと言わんばかりの勢いで飲んでいく。都々丸はヒクリと頬を引きつらせた。
「ちょっと職場がピリピリしててさ」
都々丸も初心者用と説明のついた(そのポップのセンスもどうかと思ったが)黒蜜を薄めたジュースを購入し、ロンを人気の少ない場所へ促した。あまり一般人のいる場所で吐き出す愚痴ではないと察し、ロンもストローを咥えたまま後をついて来る。
「組織犯罪対策部がマークしてた団体の動きが怪しいらしくて、本来ならうちの管轄の事件でも口を挟んでくるから、雨宮先輩が苛々しっぱなしでさ」
「成程、その八つ当たりが君に向くわけか」
「うぐ……まあ、だから事件が起きてもお前に連絡できなくて……」
「何!」
バキャ、とロンの手の中でプラスチックの容器が凹む。半分ほど残っていた黒蜜が飛び出し、ロンの手や都々丸の頬に飛び散った。
「どおりで最近トトからの連絡が少ないと思ったら……僕から事件解決の機会を奪うなんて、許せん!」
「黒蜜が!!」
もうべっとりとした手を更に握りしめるロンに、都々丸は呆れるしかない。
「その怪しい動きをする団体の情報は?! まさかM家!?」
「べたべたの手で肩を掴むな! 大体M家なら俺が真っ先にお前に連絡している!」
それもそうか、とロンはパッと手を離す。べっとり黒蜜で汚れた上着の肩を見やり、都々丸は阿三度目のため息を吐いた。
「風紀財団って知っているか? 並盛町を拠点とする団体で、『並盛の風紀を正す』って言葉通り、町の不良は全てその団体の統括下にあるらしい」
上着を脱いで近くにあった水道を使い、黒蜜を洗い流しながら都々丸は説明する。新しく別の屋台で購入した黒蜜クレープを齧りながら、ロンは「聞いたことがある」と相槌を打った。
「目立った抗争や違法物の取引をしている様子はないから、警視庁としても様子見をしていた団体なんだけど……何かここ一か月、活動範囲がどうやら並盛外にまで広がっているようだっていうんだ」
大分黒蜜はとれただろうか、と都々丸は上着を絞る。広げてみると、少し黒い色が残っていた。
「成程、導火線ばかり伸びた爆弾を見張っているわけか。導火線の先を見失わないよう、必死そうだ」
「しかもそれに火をつけそうなやつらも現れた」
好い加減もう一度羽織ることは諦めて、都々丸は上着を軽く畳んでバッグにしまった。
「イタリアンマフィアの幹部が来日したらしい。しかも、成田空港に」
「……へぇ」
黒蜜をつけた口端を持ち上げ、ロンは親指で蜜を拭った。
「彼らが極上の謎を持ってきてくれると、尚良いんだけど」
「良いわけあるか! これ以上ピリピリするのは御免だ!」
都々丸は叫んだが、ロンがそれを気に留めた様子はない。相変わらずな様子の彼に、都々丸は五度目のため息を吐いた。

◇◆◇

都々丸がその男の存在に気づいたのは、本当に偶然だった。黒蜜メニューを買いに走ったロンを待つ間、身体を凭れさせようと一本の樹の幹に寄ったとき。その根元に寝そべる黒い男を見つけた。
「こ、こんなところで昼寝……?」
根っこや石でゴツゴツとした地面を気にせず、黒いスーツ姿の男は腕を頭の下へ、長い足を組んで眠りこけている。安らかな寝顔は、翡翠やロンに負けず劣らず整っている。しかし二人とは違うピリ、とした匂いがして、都々丸は何となく身を竦めた。
バイオレットのカラーシャツに黒スーツ。都々丸でさえ高級そうだと感じる衣装で、汚れることを気にせず地面に寝転がる男。只者ではない、下手をしたらロン並に強い個性の予感がして、関わり合いにならぬよう都々丸はそろそろと後退する。
「トト! 黒蜜ハンバーグがあった! 和牛百パーセント!」
「素材の味が殺されている!」
ロンが両手に抱えるほどの黒い塊が乗った皿を持ってきたので、都々丸は思わず声を荒げた。
ピクリ、と足元の男の身体が動いたのが、目の端に映る。
ひ、と都々丸が喉を引きつらせたので、ロンも何事だと彼の背後を覗き込んだ。
「騒がしい……」
低く、地を這うような声。ユラリと立ち上がった男は樹に手をついて、ジロリとロンたちを見据える。都々丸は背筋を凍らせ、思わず後ずさった。
「僕の眠りを妨げると……どうなるか知っているかい?」
スッと男の腕が持ち上がる。何故かそこには、銀に光る棒が握られていた。
どこからそれを取り出したのかとか、こんな公園で昼寝しておいて起されたら怒るなんてどこの王さまだとか、都々丸の脳内には様々な台詞が巡って思わず口から飛び出しそうだった。
パシ、とそんな都々丸の様子を察したのかロンが手の平で彼の口を覆った。さすがのロンも、目の前の不機嫌度マックスな様子の男相手に、都々丸のツッコミは聞かせられないと判断したらしい。
「モガ!」
「……騒がしい草食動物と、混血の……」
都々丸とロンへジュンに視線をやり、墨色の瞳をスッと細める。それからフンと鼻を鳴らし、腕を下ろした。銀の棒は既に姿を消していた。
「萎えた」
ボソリと呟いて、黒スーツの男はスタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。
「な、なんだったんだ……」
都々丸はロンから解放された口を動かす。ロンはジッと、長く伸びた前髪の隙間から、去って行く背中を見つめていた。

「あ、こんなところにいた」
「何」
「え、なんで不機嫌マックス……」
「……騒がしい声で起こされた上、ちょっと放っておけない屋台の話を聞いた」
(また昼寝してたのか……)
「や、屋台ってどんな?」
「まだ時間あるでしょ」
「?」
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