◇幕間
「聖杯で藤丸と立香を同時存在させる?」

その提案を始めに出したのは誰だったか、有耶無耶になったのではっきりとは分からない。サーヴァントではなく、カルデアのスタッフである可能性は高い。しかし確かにスタッフだけでなくサーヴァントたちも色めき立ち、あちらこちらでそんなことが可能なのかという期待の声が聞こえた。
苦い顔をしていたのはロマンとダヴィンチ、他一部のサーヴァントだ。
「僕はお勧めできませんね」
乗り気でないサーヴァント組の中で口火を切ったのは、子ギルだった。彼は立香に召喚され、彼女のパーティでエースを担っている。
「どうして? 聖杯を使って、人間になったサーヴァントもいるのでしょう?」
疑問を口にしたのは、同じく立香のサーヴァント、ジャックだ。
「サーヴァントが聖杯を使用して受肉したという事例は、僕も聞いたことがあります。しかし、サーヴァント――英霊は人間として存在していた基盤がある。人々の記憶と信仰がある」
「マスターたちは違うっていうのかい?」
藤丸のサーヴァント、ビリーは理解し難いと眉を顰め、腰へ手をやった。
「マスターたちは、一つの身体に二つの魂――この数も不確定なものですが――。つまり、一方には基盤となる存在の歴史も、魔術による実体化の事実もないんです」
「核とするものがないってわけか」
「ええ。では、何を核とするか」
「――聖杯、になるだろうな」
それまで腕を組んで黙していた賢王が、重々しく呟いた。子ギルは少し唇を尖らせ、その通りだと頷いた。
「聖杯を使って存在を確立する、歴史を作り人生を作る。聖杯を核とするということ、つまり聖杯そのものになると同義です」
聖杯は聖杯戦争と結びついている。聖杯があるから聖杯戦争があり、聖杯戦争が起こるから聖杯が誕生するのだ。
「僕は、人型の聖杯のために起こった聖杯戦争を知っています。……マスターたちには、お勧めしたくありませんね」
子ギルは最後、冗談めかすように笑った。黙していたアルトリアやエミヤも賛同らしく頷いたので、そういった聖杯戦争を知らないサーヴァントたちも言葉を飲み、顔を見合わせてしまった。
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