8.









リモコンを手に取り、ボタンを押す。
すると、テレビに映像が流れ出す。
笑い声と共に、芸人がコミカルな演技をみせていた。
何故か面白くて、笑ってしまう。




ふと、杏樹は時計を見た。
良い時間を指している。




同窓会は、まだ盛り上がっているか。
そろそろ、お開きな雰囲気になっている頃かな?
と、杏樹は思った。


そうすると、心に何とも言えない緊張が走る。
そうして、楸の姿が鮮やかに思い描かれた。




会いたい気持ち
と、
会いたく無い気持ち


彼に触れたいと乞う気持ち
と、
触れるのが怖い気持ち




何とも言えない感情が渦巻く。


















「今回の作品には、気を遣いました。」







聞き覚えのある声に、画面に目が行く。
気が付けば、バラエティは終わっていて。
時間を見れば次の番組の合間にある、映画紹介をしているようだ。



「碓氷さんが主演する今回の映画は、小さいお子さんを持つ父親役なんですが、どんな所に気をつけましたか?」



そうですね。
と、アナウンサーの問い掛けに、慎重に答えるように、ゆっくりと話して行く。



「今回、小さな娘を残して妻に先立たれる、夫の役をしています。
映画は暖かな感じでは無く、どちらかと言うと暗いんです。設定もですが、描写も。
残された苦しみに、あまり関わらなかった娘にどう扱えば良いのか?
思案しながら、一回り成長する話なんですが、その心情をどう伝えようかと考えました。
辛くても周りには言えない。小さな娘に当たってしまう。
笑顔を作りながら、何とも言えない心に残る悲しみを表現出来るような描写を心掛けました。」


「そう言えば、碓氷さんは今回父親役は初めてなんですよね?」


「はい、設定年齢が私と同年齢なので、もう子供を持つような歳になったかと感じましたね。」
はにかむ様に照れた笑顔を見せていた。


「そうですよね。年齢的には小さなお子さんがいても可笑しくないですもんね。」
アナウンサーは優しい笑顔で応対している。


「はい。」


「今回の映画の見所は?」


「そうですね。先程言った心情を感じながら見て欲しいですね。映画の中で主人公の心は成長して行きます。見届けて欲しいです。」


「今回のゲストは映画『貴女を失って』に出演している、碓氷楸夜さんでした。」
有難うございました。
と、互いの顔を向けお辞儀をしている。









そうして音楽と共に、番組が終わりの宣伝をしていた。
















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