1.
私は逃げる。
あの人から・・・
何度も追い掛けられても。
たとえ・・・それが・・・
あの人を苦しめるのだとしても。
ゴトン・・・ゴトン・・
揺れる電車。
田舎町だから、人は数える程しか乗っていない。
「見て〜。まただよ!!」
きゃあきゃあ。
煩く騒ぐ女子学生達。
ふと、彼女達に目を向ける。
視線の指してある方向に目を走らせた。
電車のよくある宙づり広告。
週刊誌の大きな見出だしには、実力派イケメン俳優のスキャンダル。
そういえば、少し前には別の女性と撮られていたような・・・?
「マジで!?前は、真理とだったじゃん。」
「この次は、サクラとかよ〜?」
「あー!!絶対サクラとも遊びだって〜。」
「だよねー。碓氷楸夜ってまだまだ他にも女いるっしょ。」
「だねー!!!」
『碓氷楸夜(26)!!池垣真理(24)と破局??次の相手は、グラビアアイドルのサクラ(21)密会現場を激写!!!』
広告の派手な見出だしを見ると、何も無かった様に杏樹は窓の外の景色を見つめた。
晴れ渡る空の下に、映える海。
夏も本番を向かえ、俄かに慌ただしくなった海岸が目に映った。
電車を降りて、車でアパートに向かう。
最近出来たけど、田舎だから家賃は安い。
大好きな海も近いし、車で少し走ると大型ショッピングモールがある。
都心に行くには、直通の電車があるから利用勝手が良い。
一時間程で着く。
ここは、杏樹にとって理想の町そのものだった。
テレビをぱちりとつけると、ワイドショーで電車の中で見たあの見出だしがスクープとして流れていた。
窓を開けると、風と共に潮の香がした。
さわさわとカーテンを靡いて風が部屋を舞う。
「お腹空いたな・・・」
クルクル・・・
と、小さく鳴いたお腹に手をあてると、遅くなった昼食を食べようとキッチンに向かう。
テレビはワイドショーを終え、再放送のドラマを放映し始めた。
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