赤に染まる



まったく、何考えてンだか……。


一瞬、俺の耳が腐ったのかと思った。
突然、巨大な荷物を抱えて俺の宮へとやってきたアレックスは、空いてる部屋を一つ貸してくれ、なンてぬかしやがったのだ。
薄気味悪ぃだの、ゾッとするだのと、散々、貶しときながら、ココに泊めてくれとは、どういう風の吹き回しか。
しかも、一泊とかいう話じゃなく、聖域に滞在する間はずっと、とか言ってやがる。


「死仮面が嫌なンじゃなかったのかよ……。」
「そりゃあ嫌だけど、最近は慣れてもきたし。それにデスマスクの御飯は美味しいしね。」
「それって、タダのタカりじゃねぇか、オマエ……。」


呆れの声を上げる間にも、アレックスはズカズカとリビングへと入り込み、更には勝手に客用寝室の一つを占拠しやがった。
オイオイ、本気でココに厄介になろうってのか、コイツ。


「やっぱり、ほら。あっちは息が詰まるっていうか……、ね。」
「だからって、双児宮より巨蟹宮の方が良いって事にはなンねぇだろ、普通。」


ま、気持ちは分かるがな。
殆ど自宮に帰ってこねぇとはいえ、同居人が教皇補佐。
それも、ただの教皇補佐ではない、自分の直属の上司の兄でもある男。
しかも、使えと言われたのが、その上司の部屋とくれば、平然としてられる方がおかしいってモンだ。


「知らねぇぞ。無防備にこンなトコにいて、アレコレ口説かれても。」
「口説かれる? 誰に?」
「俺に決まってンだろ。」


キョトンとした顔でベッドの上に座るアレックスの隣に腰を下ろし、思わせ振りに肩を抱く。
だが、そもそも俺がどンな態度に出るかなンて分かり切っていたのか、肩に乗った俺の手の甲をギュッと抓りやがった。
しかも、普通の女ではない、海闘士の力だ。
流石の俺でも、ピリピリ痛んで赤くなる程に。


「痛っ……。オイ、見ろよ。赤くなっちまったじゃねぇか。」
「誰かさんが気安く肩を抱いたりするからでしょ。」
「アホか。傍に女がいて、口説かねぇ方が失礼だろ。」
「おお、流石はイタリア人。女性とみれば見境なく口説く理由がソレな訳ね。」
「見境なくって、オマエな……。」


俺の喉から漏れるのは、呆れの溜息。
隣から聞こえてくるのは、コロコロと零れる笑い声。
バカにしやがって、俺はオマエが思う程に紳士じゃねぇンだぞ。


「ヨシ、決めたわ。今から俺の全力でオマエを口説く。」
「……は?」
「は、じゃねぇよ。本気でアレックスを落とすっつってンの。」


そんな事が俺に出来るのかとでも言いたげに、向けられた眼差し。
だが、そンな疑いの目で見てられンのも今の内だ。
俺を煽った事、後で後悔しても知らねぇぞ。


「っ?! な、何?」
「何って?」
「いや、だって、その……。」


アレックスの背後から回した手で、今度は肩ではなく、髪の表面をスルリと撫でた。
触れられているのか、そうでないのか、微妙に感じる柔らかいタッチでな。
ピクリと身体が小さく反応したのを見て、今度は正面、こめかみから右手の指を差し入れた。
じっくりと頭皮をなぞり、髪の側面を分け入っていく指先の動きに感じない女は、ほぼいない。
アレックスの反応も、ピクリからビクリへ、そして、ゾクリへと変わっていくのが指先から伝わった。


「どうだ? 俺と天国、見てみねぇか?」
「……っ?!」


止めとばかりに耳元に囁いた言葉に、声にならない息が漏れるばかりのアレックス。
頬と言わず、顔全体に首まで真っ赤にしちまって。
口なんざ魚みてぇにパクパクしてるし、目ぇ開き過ぎて、目ン玉が落ちそうだ。
おーおー、これがさっきまで強気な発言してた女だってか?


「ク、クククッ。バーカ。」
「っ?! で、デスマスクッ?! ま、まさか私をからかったの?!」
「まさかも何も、オマエみてぇな乳臭ぇ女、この俺がベッドに誘うワケねぇだろ、クククッ。こりゃ、傑作だわ。」
「も、もう! 馬鹿! 馬鹿馬鹿!」


ポコポコと握り拳で俺の背中を叩くアレックスは、未だ羞恥に染まった顔で頬を膨らませ、激しく俺への愚痴を吐き出してみせた。
それも単なる照れ隠しだ。
だが、その桜色に染まる頬に、今度は冗談ではなく、本気のキスを落としたならば……。
アレックスは一体、どんな甘い息を漏らしてくれるのか。
一瞬とはいえ、そんな考えに至った自分に、心の奥で愕然とした。



桜色の甘い吐息



‐end‐





悪戯心でちょっかい掛けたら、危うく自分が本気になりそうになって、慌てる蟹氏の巻w
彼の女を落とす手練手管のバリエーションは、きっとハンパないんでしょうねw

2015.07.07

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