デートしましょう



「デートぉ? 誰と、誰が?」
「勿論、デスマスク様と私です。」
「……はぁ?」


まるで固まった動画のように静止して、たっぷり数秒。
それからノソリと身動きし、ゆっくりと私から目を逸らす。


「行かねぇ。」
「ええっ?! どうしてですかっ?!」


楽しいですよ、デート。
映画館で最新の映画を観て、アチコチ買い物に回って、美味しい御飯を食べて。
最後はホテルでしっぽりと……、なんて事があっても良い。
勿論、デートで満足出来れば、最後のお楽しみはなくても構わないんですけど。


「楽しいのはアレックスだけだろ。俺にはメリットがねぇよ。」
「いえいえいえ、デスマスク様だって、絶対に楽しいですよ! 観たい映画が上映されているって言ってましたよね?」
「あぁ、そうだな。」
「お買い物もしたいですよね?」
「まぁ、暫く外出してなかったしな。」
「美味しい食事にも行きたいですよね?」
「本当に美味いメシだったらな……。」


デスマスク様は、すっごい渋い顔をして頬杖を付く。
その嫌そうな顔のまま静止し、熟考する事、一秒・二秒・三秒……。


「やっぱ行かねぇ。」
「結局、変わらないって、どうしてですかっ?! それだけ考え込んでおいて断るとか、全くもって意味が分かりません!」
「俺もオマエとデートに行くとか、全くもって意味分かンねぇ。」


そうですか、分かりました。
デスマスク様は出不精なのですね。
行きたいところ、やりたい事があっても、外出するのが面倒で、ついつい自宅でゴロゴロしたくなっちゃうタイプ。
折角のデートのチャンスも、ゴロゴロの誘惑には勝てないって訳ですか。
よし、だったら、こうしましょう!


「オイ、アレックス。なンの悪巧みだ?」
「悪巧みなんて人聞きの悪い。ちゃんとデスマスク様の事を考えての提案です。」


まずはアフロディーテ様にDVDを借りて、それを巨蟹宮のリビングで楽しむ。
ケーキやコーヒーを用意して楽しむのも良いし、アルコールを飲みながらの鑑賞も良いだろう。
食事は私が頑張って作ります。
いつもと代り映えしないかもですが我慢してください。


「代り映えっつーか、いつもいつも勝手に俺の宮に入り込んで、勝手にキッチン使って、勝手にメシ作ってンじゃねぇか。まぁ、助かってるからイイけどよ。」
「買い物は……、宮費を少しだけ持ち出して、良さげなお洋服を選んで買ってきます。私好みのチョイスになりますが、そこも我慢してください。」
「我慢以前に、勝手に宮費を持ち出すなよ。誰の金だと思ってンだ、あ?」
「最後は、デスマスク様がグッスリ寝入ってから、夜這いに伺います。そこで、夜の深い時間を、しっぽりたっぷり楽しむ、と。素晴らしい代替え案ですね。」
「夜這いはヤメロ。どこが素晴らしいンだよ。結局は、アレックスが楽しいだけじゃねぇか。」


そんな事はないと思いますけど……。
映画も、食事も、買い物も、夜のアレコレも、全てデスマスク様が楽しめるような内容になっている筈。
私の楽しみなんてオマケですよ、オマケ。


「そもそもの前提で、俺の宮に勝手に侵入してる時点で、大問題だろ。」
「今更、それを言いますか?」
「不法侵入で教皇、もしくはアテナの嬢ちゃんに訴える事も出来るンだが?」
「訴えたら、その後の掃除も洗濯も食事の用意も、常に御自身で行わなければいけなくなりますけど? デスマスク様は、それで良いのですか?」
「…………。」


長い長い沈黙。
本当は、私などが家事の手伝いをしなくても、何もかも全てデスマスク様お一人で完璧にこなせるのだ。
それを、私が勝手に判断し、少しでも彼の負担を軽減出来ればなんて、好きに巨蟹宮に入り込んで、好きに家事仕事をしているだけ。
それが彼の役に立っているのかと問われても、そうとは限らない、ただのお節介なだけ。
それなのに、「迷惑だ!」と文句すら言わないデスマスク様は、とても優しい人だ。


「チッ、しゃあねぇ。今回だけ、特別だぞ! 特別!」
「わーい、やっぱりデスマスク様ですね! すてきー、やさしー、かっこいー!」
「はしゃぐな! 仕方なくなンだからな、仕方なく!」
「はーーい!」


さて、何処のホテルを予約しておこうかしらん。


‐end‐





超強引な(ストーカー)女官さんと、面倒臭いからなのか、嫌よ嫌よも好きの内なのか、流されてばかりの蟹さまのお話ですw
こんな感じでグダグダ続いていきますが、お付き合いいただけると幸いです。

2021.07.02



- 1/5 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -